ねえ千昭…─
  聞こえてる?








私達はもう3年になったよ。

千昭は未来で何をやっているの?


あの頃……3人で楽しく遊んで居たあの頃を思い出す。








──「……間宮千昭です………」

アイツは現れた。目つきの悪くて赤茶髪の男。
不良かと思ってたが何もなくその日の授業が終わった。

席が前後だったためか功介と少しずつ打ち解けている様だ。
私も何度か話に入ろうと思ったが入りづらかった。
私に用があった時も、呼んだ名前は「紺野。」だった。
私と千昭の間に壁があって入れなかったんだ。

そうこうして夕方になった。
クラスの皆、否部活の無い者は皆帰ろうとしていた。

でも本当に何もなく終わるのかと思った矢先だ。

「ね〜転校生。なんでオレンジジュースみたいな頭してんのぉ?」

ちゃらちゃらした男が千昭に絡んできた。

「あ?これは地毛だ」

千昭が反抗を見せると何かと人の揚げ足でも取るようにああ言えばこういう。
面倒くさい奴だ。

男は調子にのって千昭に喧嘩を売った。
もちろん、短期な千昭は挑発に乗ったのだ。


誰かにその事を聞いて見に来たら既に喧嘩が始まっていた。
見たところ千昭は決して弱くない。
でもいくら強くても量の差がある。
殴っては捕まれ殴られ……
どうしようかと焦っているといつの間にか来ていた功介が止めに入っていた。

「何してんだ、おめぇら」
千昭と不良の腕が功介に力強く締め付けられる。
其処で一旦休戦になった瞬間に誰が呼んだのか分からないが先生がやってきた。





「よかったじゃない。大した怪我じゃなくて」

帰り道、私は一緒に帰えろうと誘った。
「あ?黙れ紺野」
だけどその頃の千昭は荒れてて私から離れて歩いている。
「何よ、やられてたくせに」
「うっせ」
「まあまあ、二人とも」
何度もこういう事を繰り返した。
私が千昭に何か言って千昭が怒って功介が止める。
そのうちに分かれ道になって私達は別れた。



後日。
千昭はアイツに喧嘩を売った。
その男の仲間全ても一人で叩きのめし、体中傷だらけで口を切っていた。
その姿を見た私はすぐに千昭に駆け寄ってこう言った。

「ガキ」

功介の足元でしゃがみこむ千昭に私は見下ろしながらそう言い放った。

「てめぇの方がガキじゃねぇか」

下から眼を飛ばす千昭。
そんな千昭に私は優しく言ってやった。
「何よその目。心配してあげたんだから」
「女に何が分かるかよ。それに心配なんかされたくねーよ」

そっぽを向いて私から目を逸らす。
ムカッ。少しイライラしたがそれを抑えた。
抑えたというか、怒るよりも元気な千昭を見て安心した方が強かった。

「千昭は私の事嫌いかもしれないけどさ、私にとって千昭はもう友達だから」
千昭の驚いた顔がこっちを向いた。
「次喧嘩なんてしてみなさい。私が止めてみせるから」
腰に手を当てて強く言う。
そんな私を呆けた顔で見上げた。


しっかりと覚えてる、あのときの千昭を。
私は絶対に忘れる事はない。

初めて私に向けられた優しい笑顔なんだから。




─お節介野郎─
あの後千昭は私にそう言った。
でも私を威嚇する声じゃなくて優しい声だったんだ。
千昭の笑った顔が今でも頭に浮かぶ。


─でも俺……─

─お前の事嫌いじゃないぜ─








胸が苦しくなった。胸が熱くなった。
締め付けられる様な心臓を鷲掴まれた様な……とにかく苦しい。

千昭……会いたいよ。
今なら素直に言えるのに。
今なら千昭に笑顔で「好き」って言えるのに。
言いたい時に貴方は居ない。
あれほど近くに居たのに
手を伸ばせば掴める距離に居たのに。
今はどんなに早く走ったって貴方に追い付けない。

桜の木の太い幹に手を触れる。
千昭と初めて会った時も…桜が満開に咲き花びらが辺りを魅了する様に散って居た。

今年は一人か。
「千昭……」
言葉にした名前も本人には届かない。
届いて……。
千昭、好きだよ。







「真琴……」



ふわり。懐かしい匂いが鼻を擽る。
同時に優しく抱き締められる感覚に陥る。
視界の隅に赤茶色が入った。
ふさふさしたものが首を擽る。



「ち……あき…?」


細くてそれでいてがっしりした腕が肩を抱いている。
涙が目から溢れる気がした。
間違いなく、千昭が私を抱き締めている。


「会いたくなって……また来ちまった…」


懐かしい声。校舎から騒がしい声が聞こえてるのに耳に入るのは千昭の声だけ。
「会いたかった……」
抱き締めている力が入る。
私も苦しかった様に、千昭も苦しかったんだ。

「おかえり……千昭」
横から見える千昭の頭をそっと撫でる。
入っていた力が弱まった。
優しく抱き締められる。まるで割れ物を扱うかの様に。


「…ただいま………」

私達を包む様に花びらが舞う。
優しい優しい一時。
私達はまたこの場所で出会ったんだ。

「真琴ー」

遠くから功介が私を呼んでいる。


今まで休んでいた分の波乱と騒がしい日常が
今日から再び始まるんだ。


END