淡恋歌
学校なんてつまらない。
そりゃ楽しい時もあるし、友達と一緒に笑ったりする。
でも、それは殆んど人を馬鹿にしたネタばかり。
あたしもよくいじられた。はっきり言ってそういうのはつまらない。
それに比べて男子の会話を聞いてると楽しいと思う。
中には人を馬鹿にする奴も居るけど、大抵は自分がおどける事で人を笑わせているし。
正直言って、あたしには"親友"と呼べる友達がいない。
周りには偽りの友人。
みんなみんな信じられなかった。
あたしはそういう人間。
できるだけ普通の人間を装うが、話下手なため目立たない。
中には暗いと思ってる人も居るだろう。
男子たちはあたしの友達には話しかけるのにあたしにはあまり話しかけてこない。
あたしと話したってつまらないから。
実際あたしだってつまらない。
人に気をつかうの苦手だから。
人とつるむのが嫌いなあたしは中学3年にもなって一人も彼氏ができていない。
最近はあまり聞かないが、俗に言う"彼氏居ない暦15年"だ。
周りの友達には今までに一人は必ず彼氏がいて、あたしが居ないと言うと驚かれる。
彼氏が居ないのってあたしだけ?
焦りもする。だけどどうしたらいいのか分からない。
今日もあたしは放課後日直の仕事である日誌を書きながら考えていた。
「関原さん書けた〜?」
丁度書き終わった頃、もう一人の日直である西野が教室に入ってきた。
ドアから顔を出してあどけなく笑う彼は、走っていたのか息が少し上がっている。
きっと今さっき思い出して焦って来たんだろう。
「……はぁ…西野、ちゃんと仕事してよね。」
「悪ぃ。忘れてたんだよね〜」
軽い男。西野は軽くて女には甘い性格。
そのうえ顔も悪くなく面白いからクラスだけでなく学校中で人気があった。
あたしも一時期……いや今も少なからずアイツに惹かれてる。
でも苦手なタイプだったし不似合いで無理だと思った。
今諦めようと、ふっきろうとしてる最中。
あたしは西野とは不釣り合い。
それに、西野はあたしの友達が好きみたいだから。
「なぁ、関原」
殆んど無言で時間が過ぎた。
時計の秒針が刻々と時間が過ぎるのを訴えてくる。
ふと時計を見ると、短い針は5時を指していた。
日誌を担任に渡して帰ろうと鞄を掴んだ時、西野があたしを呼んだ。
「……何?」
早く帰りたい。あたしはそう思ってた。
だって、この空気が辛いから。
今のあたしにとって鼓動がトクトクとだんだん速くなってしまうこの時は耐えられないから。
用があるなら早くすませたい。早く言って。
「俺…」
黙る西野。顔がうつ向き表情が見えなくなった。
もしかして…。
だけど頭の中で今考えた事を掻き消す。
期待しちゃダメだ。ありえない。
こんなあたしを好きになってくれる人なんて居ないんだ。
だけど耳に入って来たのは期待通りの言葉だった。
一瞬耳を疑った。いや疑う前に何を言っているのか理解できなかったんだ。
「俺関原の事が好きなんだ」
時が止まった気がした。
だけど時計の秒針はあたしの耳に入ってくる。
この時動いていたのはあたしの速まる鼓動と時計の針だけだった。
あたし今凄い顔してんじゃないかな。
「えっ…」
何か言おうとして口から出たこれが精一杯だった。
驚きで何も考えられない。
ありえない。ありえない。ありえない。
あたしには信じられなかった。
そう、信じちゃいけないんだ。
「西…」
「なんてうっそ〜」
「…え?」
再び固まる。
嘘…?冗談で好きでもない人に告白するの?
分かってた。分かってたけど、胸が苦しかった。
こうなると予期していたのに、あたしの顔は歪むばかり。
「本気だと思った?その様子じゃ今までに告白された事ねーだろ」
笑う西野の顔が視界に入る。視界がぼやけてきた。
西野の顔もはっきりと見えない。
「わりぃ。関原だったらどんな反応するのかなって思って。結構暗いじゃん?男居んのかと思ってさ〜」
ペラペラとあたしの前で語る西野。
どうしようもなく憎い。苦しい。
例え分かってたとしても、言ってほしくなかった。
なんであたしはこんな奴が好きだったんだろう。
反発して何か言わなきゃ。
そう思うのにあたしは一言しか言えなかった。
何も考えずに口から出た言葉。
「……ぇ」
「え?」
西野が耳を傾ける。
呟く様に言った言葉をもう一度、今度はしっかり言ってやった。
「サイテー!」
西野の顔が歪む。うつ向いていたあたしの顔が西野の目に映った。
今のあたしの顔、酷い顔してる。
辛くて、苦しくて、憎くて、何より泣きそう。
「せき…は…ら?」
西野の焦った顔が見えたけど、あたしはそれを放って教室から飛び出した。
静まりかえった廊下にあたしの足音だけが響く。
後ろからは何も聞こえない。
少しだけ期待してしまう自分が憎い。
西野が追い掛けてくるはずもないのに。
男居なくて悪かったな!
あたしは……あたしは…
本気で西野の事が好きだったのにっ
涙が出てきた。
走って走って走って、あたしは家まで休まず帰った。
息が荒くなり、上手く呼吸ができない。
喋る事すらできない。
胸の中がぐしゃっと締め付けられた気がした。
西野はあたしなんて本当に眼中に無かったんだって、はっきり思わせられた。
あたしは西野にとって暇潰しのおもちゃでしかなかったんだ。
その夜、どうしようもない不安と恐怖と切なさがあたしの中を駆け巡って眠れなかった。
結局あまり眠れず朝になった。
小鳥が囀り太陽がカーテン越しに淡い光を放つ。
あたしの目元はうっすらと紅く腫れ、涙の跡が残っている。
あたしやっぱり西野の事好きだったんだな……。
つくづく嫌になる。
ふと窓にかかったカーテンを避けて外を見てみる。
あたしの心境とは裏腹に空には曇が少なく、太陽が黄色く輝いていた。
あたしの中はぐちゃぐちゃなのに。
なんでよりにもよって西野なの?
なんで西野に馬鹿にされなきゃならないの?
なんであんな奴好きになったの?
このもやもやを何とかして払えないだろうか。
何より最悪なのは今日も西野と会わなきゃならない。
休みたい。でも受験生のあたしは1日でも欠席したくなかった。
ああ、西野のせいだ。
なんで昨日あんな事言ったの?なんで・・・。
今頃西野も気まずくて学校について悩んでるのかな?
でもアイツも馬鹿じゃないんだから、こういう事になると分かってて言ったとか?
ああもう、イライラする。
とにかく今日はできるだけ誰とも話さず過ごそう。
誰かに話しかけられても今の私には上手く対応できない。
もし誰かに話しかけられたら素っ気無くしよう。
友達が居なくなるかもしれない。
でも、今はそれよりも自分がぐちゃぐちゃになってしまうようでもやもやしていた。
今は友達よりも、自分が優先。
皆は自己中って言うけれど、あたしは今日は気にしない。
明日の事なんて気にしない。
そう。今日はずっとそうしていればよかったんだ。
素っ気無く対応していれば、あたしは其処まで悩む事にはならなかったんだ。
暗い面持ちで通学路を歩く。
あたしの周りには元気な生徒達が騒いでいる。
沢山の子の会話が耳に入ってくる。
いつもは何も感じない登校時の周りの会話が今は気になって仕方がなかった。
西野が居ないか探してしまう。
居てほしくない。
でも何処に居るのかと不安になる。
あたしは学校に着くまでの数十分間、ビクビクして過ごしていた。
たまに話しかけてくれる友達にも『おはよう』という一言しか言えなかった。
弱気なあたし。
こうなる事が嫌だから、今まで恋愛から離れていたのに。
……でもこれは恋愛とは言わないね。
「おっはよう、結夜!」
「みう・・・おはよう」
あたしの友達の中の一人、天野美兎だ。
明るくて、頭もよくて、そして
西野祐斗の思いを寄せる人。
皮肉な事に、あたしの好きな人があたしの友達が好きで・・・
そして皆同じクラス。
西野の気持ちはメールで聞いていた。
それがちょっと前の事だから、きっとあたしをからかう気だったんだ。
ああ。思い出しただけでも胸が苦しくなる。
ムカつく、イラつくというよりも
むしゃくしゃして胸が締め付けられる。
西野のバカヤロー。
みう・・・ゴメン。
少しだけ貴方にイラっときてしまった。
あたしも最低だ。
人に当たるなんて。
「ねえ、結夜。何で『結ぶ』と『夜』って書いて『ゆや』なの?その漢字にした理由も知りたいな〜♪」
幼馴染の麻奈だ。
あたしが幼稚園の時から一緒だった。
でも、少し気を使う相手だった。
タイプが違ったから。
麻奈はあたしが席について一人で窓の外を眺めていると声をかけてきた。
ちょっとふざけすぎるところがあるけれど、麻奈は優しい心を持った子だった。
あたしに元気がないと、たまにこうして側に来てくれくれる。
「何で急に〜?」
無理に笑ってみせる。
それに気づいたのか気づいてないのか分からないけど
麻奈はいつもと同じだった。
「名前の理由ね・・・・・・特に意味はないんじゃないかな?」
あんまり考えた事がなかった。
確かに自分で考えてみても、分からない。
変わった名前だとは思っていたが
漢字までは気にしてなかった。
二人でふざけながら時を過ごす。
名前の由来を考えて、『夜を結ぶ』という物もあれば
『結』は『ケツ』とも読むので『ケツヤ』という感じに意味のないものまで出した。
そうこうしているうちに、辺りは賑やかになってきた。
クラスの子皆、学校に着いたのだろう。
皆思い思いに友達と話している。
見渡していると、西野が視界に入った。
咄嗟に目を逸らそうとすると、目が合った。
ほんの一瞬だったのに気まずくて
あたしは顔を少し赤く染めてすぐに顔を背けた。
隣でどうしたのかと麻奈に問われたけど、
「・・・なんでもない」
と平常心を装う事しかできなかった。
それから時間は早く過ぎた。
何も考えないで過ごして来たからか。
朝までは早く帰りたいと思っていたけれど、
暇があれば空を眺めてずっと過ごした。
授業中は黒板をただただじっと眺めた。
珍しく必死にノートにメモを取ったりした。
普段しない事を今日沢山した気がする。
でも、あまり覚えてない。
無意識・・・なのだろうか。
ただただ、西野とすれ違ったり目が合ったりした時の気まずい感覚が
毎度毎度あたしを現実に引きずり起こした。
現実逃避したいと思ってしまう。
昨日あった事は夢なんだって。
ドラマの様になんか人生行かない。
恋愛も、人との接し方が上手な器用な人間こそできるんだ。
話下手で、顔も可愛くなくて、そして太ってて・・・。
こんな人間を誰も好きになんてなりゃしないよ。
人は中身とか皆言うけど、実際皆外見ばっか気にしてる。
そんなの・・・無理。
あたしは我に帰る度にそう思うんだ。
不公平だ。
人は下とばかり比べてる。
でも、持ってる人はずるい。
あたしは人を怪訝な目で見る様になっていた。
あたしは友達にもそういう目を向けているのかな。
酷い人間。
あたしこそ、酷い人間なんだ。
一日が終わり、帰る準備をする。
部活が無いので帰りが早い。
あたしは早く帰れる事に少なからず喜んだ。
後ちょっとで別れられる。離れられる。
そう思っていたのに・・・
「関原っ!」
下駄箱で一人靴を履いていると後ろから呼ばれた。
誰だかわかってる。
この声は何度も聞いた。
昨日まではこの声をいつも探してた。
今となっては聞きたくない声。
あたしは靴を履き終えると無視して歩き続ける。
また胸がきゅっと締まって苦しくなる。
でもあたしは後ろから自身の名を呼ぶ西野の声を聞かなかった事にした。
「待てよ関原!!」
何度も呼ぶ西野。
だけどあたしは振り返る勇気がない。
今振り返って笑う事ができない。
例え作り笑いだとしても
今唇をかみ締めるあたしには表情を和らげる事なんてできないんだ。
「関原!」
肩が掴まれる。
咄嗟に振り向かされた。
驚いてあたしは小さく悲鳴を漏らした。
今の顔は見られたくなかったのに・・・。
昨日の事を悔やむ表情の西野の顔。
でも、辛いのはあたしなんだよ?
無理やり肩から手を払って歩き出す。
「・・・・・・結夜っ」
どきっとした。
初めて呼ばれたあたしの名前。
だけど、心の揺れをかき消す。
西野・・・最低だ、本当に。
これ以上あたしをめちゃくちゃにしないで。
もう一度肩を掴まれる。
西野が回りこんで正面に立った。
そして頭を下げたと同時に、聞こえた消えそうなくらいの声。
「ゴメンっ!!」
何度も何度も立ち尽くすあたしに投げかける言葉。
でもあたしは許せなかった。
「もう・・・止めて。あたしに構わないで・・・」
目に涙が溜まる。
泣かないようにと堪えて、少し斜め上を向いて・・・
西野の横を走って通り過ぎた。
それから西野は追って来なかった。
さっきまでずっと呼ばれていた名前も、何も。
何もがあたしを追っては来なかった。
矛盾するあたしの心に惑う。
自分の心でさえ、何がなんだか分からなくて。
あたしは凄く、苦しかった。
気がついたらもう家はすぐ其処で、辺りは薄暗くなっていた。
空には細長い雲がいくつもありうっすらと赤く染まっている。
いつもあたしが辛い時空は嫌なほど綺麗だと思う。
それは何でだろう。
自分をむき出しでいられるから?
辛い時苦しい時側に居てくれるのが空だったから?
見た目は違っても空はいつも真上に存在する。
当たり前だけど、今は何故か心強かった。
無言で玄関に入ってリビングへ向かう。
其処には母さんが居て、皿洗いをしながらテレビを見ていた。
「あ、結夜ちゃん。おかえり」
「・・・ただいま」
あたしの素っ気無い態度に気がついたのか、母さんの表情が変わった気がした。
なんだかんだ言って一番あたしの事を分かってくれるのは母さんなのだろうか?
友達はあたしの違いに気がつかないから。
髪を切っても気づかないから。
たまに麻奈だけが気づいて、それをきっかけに誰かが気づく。
あたしはそんなに薄いんだ。
「結夜って変人〜」
とか冗談言い合って笑い合って・・・それでも気が付かれない存在。
一人考えれば考える程ネガティブになる。
・・・もう考えないようにしよう。
冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注ぐ。
そしてそれを一気飲みして空になったコップを置いた。
「お菓子其処置いてあるから」
母さんに進められて、あたしはそのお菓子を手に階段を上った。
部屋に入ってから、鞄を床に置いてイスに腰掛ける。
そして机に顔を伏せて無我夢中に泣き続けた。
声を殺して、下に居る母に聞こえない様に。
そして決めた。
もう恋に揺れない。
西野とは普通に接しよう。
まあ、どうせあっちから寄って来ないだろうけど。
そう思うと、先ほど自分がした事を少し悔やんだ。
未練がましい。
あたし、もうどうしたらいいんだろう。
今ある涙が乾いた頃、ふと今日の宿題を思い出した。
何一つやっていない。
中学3年生の宿題は結構多い。
他の子に比べたら塾に行ってない分楽な方だが、それでも量は多かった。
鞄の中から乱暴にノートを取り出す。
宿題を始めて1時間経った頃、下から母の声が聞こえた。
「結夜ちゃ〜ん、ご飯〜」
どうやら夕飯の時間になった様だ。
母さんの声と混じって兄ちゃんや父さんの声も聞こえる。
いつの間にか帰っていた様で、あたしは今まで気が付かず宿題をやっていたんだ。
今までやっていた宿題にしおりを挟んで片付ける。
こんな短時間で結構やったなと少々感心。
そして再び思い出した西野の顔。
もう、思い出さないって決めたのに。
頭の中のものをかき消して、一度真っ白にする。
一息吸って吐いて・・・部屋のドアノブを握った。
ドアを開けると、少々暗い廊下の電気が部屋の電気にかき消された。
部屋の電気を消して部屋を出る。
このままあたしの感情も消せたらいいのにと思ってしまう。
でも、やっぱり喜怒哀楽の喜と楽は欲しい。
我侭なんだ、あたしは。
下から聞こえる明るい声々を聞きながら、あたしは下を向いて階段を下りた。
また日が経った。
朝目覚めたあたしは時間を確認して一階に降り顔を洗う。
そして着替え終わると朝ごはんを食べた。
いつもと変わらない、ただただ平凡な日常。
本や小説の中では少し変わった事があるかもしれない。
でもこんなあたしには無理な話なんだ。
いつもと同じように学校へ向かう。
途中で会った友達と一緒に無理に笑いながら歩く。
忘れればいいんだ。
あんな事どうでもいいんだ。
今考えたら小さいことだって気づけた。
そう思ったら気が楽になった。
あたしはもう大丈夫。
「おはよう!」
「あ〜おはよう結夜♪」
友達があたしに挨拶を返してくれる。
ほら、あたしには友達が居る。
ちょっとはそっとの悩みなんて気にしなくていいんだ。
「おい祐斗、お前昨日なんで先に走って帰っちまったんだよ?」
西野の名前にも反応しない。
あたしは大丈夫。
「別に・・・何でもねーよ」
西野の声にだって・・・少し胸が痛むだけ。
だから別に大丈夫。
あたしはあたし。
何も気にする事じゃないんだ。
そう、あたしはもう平気。
そう思ってたのに・・・。
事の始まりは今日の放課後。
それから思ってもみなかった展開があたしを待ち構えていた。
辛くて悩んで・・・だけど心が落ち着いて。
迷って笑って泣いて・・・だけど心が和らげられる。
そんなもどかしい展開があたしを包み込むなんて今のあたしが気づくことなどない。
その前に起こる辛い現実があたしの思考回路をぐちゃぐちゃにするから。
ふっきったあたしの心を再び惑わすから。
16:30。一度下駄箱まで行ったあたしは忘れ物を取りに教室へ戻った。
そしてあたしは見てしまった。
目の前に繰り広げられた見たくなかった光景を。
日直が窓を閉めるのを忘れたのか風が教室に入ってきてる。
揺れるカーテンに薄暗い教室。
その教室に居るのは二人の男女。
どちらも見覚えがあって、何かを話してる。
そして次にあたしの目に映るのは・・・
西野と美兎がキスをしている姿だった。
同時に目に涙が溜まってきた。
苦しい苦しい苦しい。
胸がまた疼いた。
募る思いに嫌気がさした。
やっぱり・・・西野はあたしの気持ちがわかってなかった。
裏切られた気がした。
昨日あたしを追いかけてきたのは何だったの!?
西野は他人がどうでもいい存在なんだ。
今こうして抱き合い互いを求めてるんだ。
反省なんて・・・してないよ。
「最低・・・」
あたしは下を向いて一昨日と同じ事を呟いた。
その声が聞こえたのか、二人の影が離れてこっちを向いた。
顔を上げれば二人の驚いた顔が目に入る。
西野の焦った顔と美兎の赤くなった顔が。
見たくなかった。
だけど・・・顔を背けなかった。
背けられなかった。
もう何も考えれなくてあたしはただただ突っ立ったまま。
一言口に出せただけでも凄い事だった。
「結夜・・・」
「関原・・・」
二人の声がダブる。
あたしは唇をかみ締めた。
暫くして痛みを感じて血の味がした。
だけど唇に込める力は緩めない。
痛みが増す。
涙も目から流れそう。
あたしは必死に耐えた。
刻々と時間が過ぎ、気づけば太陽が沈んでいた。
「・・・邪魔してごめん・・・・・・」
それだけ言うとあたしは教室を飛び出した。
これで三日目だ、走って帰ったのは。
毎日息切れして帰ってるのに懲りないな。
でも走らなきゃ・・・
別の辛い事で忘れなきゃあたしはやっていけない。
ふっきったはずだったのに!
何で西野はあたしをめちゃくちゃにしてくのかな?
これもわざと?
あたしが辛いのを楽しんでいるの?
あたしは西野を・・・人を信じられなくなってきた。
美兎は何も知らないけれど裏切られた気がした。
友達まで信じられないなんて、あたしも最低だな。
家に着くと静かな部屋で枯れた涙をもう一度流した。
枯れたはずの涙が尽きることなく頬を伝う。
諦められない思いがあたしの中を駆け巡る。
先ほどの辛い現実があたしの中を駆け巡る。
止めたいのに涙は止まってくれなかった。
暫くして目が真っ赤に充血した時あたしは泣きつかれて眠りについた。
そして夢を見た。
誰かがあたしに手を差し伸べてくれる夢。
顔が見れないけれど背が高めで優しく低い声。
あたしが首を傾げてくるとその人はあたしの手を掴んだ。
そのまま優しく引っ張り挙げられて体がふわっと宙に浮いたんだ。
其処で目が覚めた。
途端に現実に引き戻される。
優しく擦って目をしっかり開ける。
ぼやけていた視界がくっきりと映り朝の光が少し眩しい。
ああ、今日も学校へ行かないといけないんだ。
憂鬱だった。
美兎にどうやって接しよう。
その前に今日は話さないだろう。
気まずくて話しかけてこない。
あたしも話したくない。
そんな気分じゃない。
何で毎日毎日・・・嫌な思いをして学校に行かなきゃならないのだろう。
そう思うけど、あたしは今日も学校へ行った。
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