生きて紡ぐ詩





紅く染まる‥景色―‥‥
あたしはどうして
ここにいるんだろう


紅く染まる‥身体―‥‥
あたしはどうして
こんなにも汚いんだろう


紅く染まる‥右腕―‥‥
あたしはどうして
血に塗れた刀を持っているんだろう



あたしはどうして‥‥――



















『なー赤月‥‥まだなの?』
「うっせーな。もうすぐだっつーの」



かれこれ数分間、同じ会話を繰り返していた。
都会の夜は七色の光がクロスに伸びて、他の色と交差して混ざり合っている。
通る場所通る場所、まるでイルミネーションで飾られているみたいだ。
以前住んでいた街はクリスマスでない限りこんな景色は見られなかった為
今視界に広がる世界が自分の感覚を珍しく震わせた。

赤月があたしの2,3歩前を歩いている。
2人を囲む空気が静かになる度、前を歩く銀髪が揺れた。



「お前さ、人と交わろうとか思わないわけ?」



何を言っても少ない口数で返すあたしに嫌気が差したらしい。
透き通った黄色の瞳が自分を捕らえている。
その瞳は周りの光に照らされてとても綺麗だ。
とてもそんな事を考えていようとは思えない素振りでは答えた。



『別に。ただ‥‥』



いくら仲良くなっても、本当の自分を知れば誰もが離れていく。
自分が抱えるものを打ち明ける事ができない以上‥‥。


離れていく悲しみを味わうくらいなら‥――



「ただ?」



ボスッ―‥

『っと‥‥』



立ち止まった赤月に正面からぶつかってしまった。
我ながら鈍くさい‥‥。
ぶつけた鼻に触れながら離れて上を見上げてみると
赤月が顔を覗き込んでいた。



『‥‥なに?』
「お前ここシワ寄せすぎ」



痛っ。赤月の指が眉間を弾いた。
思わず顔をしかめる。



『てめ‥‥』
「ぶはっ‥変な顔ーっ!!」



人の顔を見て笑うとはなんて失礼な奴だ‥‥。
しかもでこピンをした本人がだ。



「まーまー。んな顔すんなって」



ほら、行くぞ、とまた先を歩き始めた赤月。
あたしは何度コイツに振り回されてんだろう。
これから先も沢山振り回されるかもしれないと思うと体が急に重くなった気がした。







***



それから数分後―‥‥
赤月に連れられてやって来たのは
とても綺麗とは言えない、おんぼろビルの4階にある小さな事務所だった。
狭い階段を上って事務所に入った時
まず視界に入ったのはクラスメートの橘思徒と紀多みちる。
それから昨日会った可愛い男の子があたしに気付いて、軽い足取りで側までやって来ると手を取った。



ちゃんいらっしゃーい♪」



その子から視線を離して部屋の奥を見ると
あたしを面倒事に巻き込んだあの鼈甲という男がいた。



「いらっしゃいさん。待ってましたよ」



相変わらず気味の悪い声でそう言うと
あたしは目の前の椅子に座るように促された。



『で、どこまで話したのかな』



先程の可愛い男の子が出してくれたお茶を啜り、痩せた体の主を見上げる。
当の本人はずり下がった眼鏡をくいっと上げ、こちらを見ていた。



「まぁ‥‥必要最低限の話ですよ」
『それにはあたしの正体の話は入ってる?』
「‥‥正体?」



鼈甲とあたしの間にゾンビコンビが割り込んで来た。
どういうことかと言わんばかりの表情だが、あたしも渡し守も何のリアクションも見せない。
また一口お茶を啜っただけだった。



「貴方はゾンビじゃないのに不思議な力を持っています。だから私達に有益だ‥‥と、それだけ伝えてあります」
『それだけで皆は納得したと‥‥?』



不思議な力を持ってる‥‥。
それだけで納得なんてあたしには到底できない。
だからと言って、まだコイツらに正直に正体を明かす事もできない。
この中であたしの正体を知ってるのは多分渡し守だけ。
どうせいつかは話す時が来るんだろうけど、今は‥‥‥。



「まー、いーんじゃねぇの?」
『‥‥は?』



赤月知佳だ。
頭の後ろで手を組んだ状態であたしの前まで歩いてくると、見下ろす様にあたしを見て言った。



「ここの奴等はだいたい訳有りだったりすんだよ。だから言えねーっつーんなら無理に聞かねぇ」
『無理に聞かねぇって、昨日あんだけ知りたがって‥‥』
「も、もちろん凄く知りたいですけどね、さんの事。
 でもこれから一緒に戦っていく仲間ですし、言える様になったらでいいんですよ」
『赤月‥‥紀多さん‥‥』



純粋に凄いと感じてしまった。
ここの人達はあたしが今までつるんできた奴等には無いものを持ってる。
何も話さない者を受け入れるなんて、あたしみたいに人を信じない奴にはできない行動だった。



「まぁ‥渡し守がスカウトしてきて、それで大丈夫だっていうなら役には立つんだろう」



今度は橘思徒だ。
橘はあたしの隣に腰を降ろすと、じっと見つめてきた。



「信用どうのこうのはどうでもいい。重要なのは君に使い道があるかどうかなんだ」



コイツはほんと、真顔で凄い事言ってくれるよ。
若干、あたしの顔が無意識に引きつった。
利用されるつもりはないが、こうも、利用できぬもんなら無用だとあからさまに言われると何だかムカつく。



「まあその辺は大丈夫そうだな。このバカよりは使えそうだ」
「誰がバカだ、この触角ムシ野郎ッ」
「バカにバカと言って何が悪いこの鳥の巣頭」
「んだとォッ!?テメェやっぱもっぺん死んどけ」
「何度死んだって同じだと分からんのかこの脳みそクルミバカ」
「あーうぜぇッ!!てめ、右手交換したら覚えとけよ!!」
「ふん、何度そのセリフを聞いたか。耳にタコができそうだな」
「タコで耳が塞がって聞こえなくなればいいだろ。いっその事タコになれ」
「タコになれるわけないだろう、お前は本当のバカか」
「何だとーッ!?」
「あーもうチカ君シト君!話終わりませんから、ね!」



相変わらず、凄い低レベルな口論。
こうも何も考えないで無邪気に何でも言い合える‥‥。
これがあたしにもいつかできる様になるのだろうか‥‥?



『‥‥‥ふっ‥‥ははっ//』
「な、何だよいきなり」



突然笑いだしたあたしを赤月が睨んだ。
でも笑いたくもなる。
こんなの初めてだから‥‥。
低レベルで、なのに大事な事を分かってる、人間じゃない生き物。
初めて会った、こんなの。
今まで感じた事のなかった感覚に鳥肌が立つ。
両腕を擦り会わせて体を少し温めた後、あたしは一息ついた。



『生に無頓着なこんなあたしでいいのならお手伝いしますよ、威勢のありすぎる屍さん』



にこっと笑って、またお茶を口に流し込んだ。
残っていたたすべての苦み成分が喉を通過していくのを感じてからゆっくりと立ち上がる。



「‥‥‥威勢のありすぎる屍‥‥?ああ、俺らの事か」



この中で一番頭の回転の悪そうな銀髪頭が首を傾げて呟いた。
それに応じた触角ちょろりんが口を開く。



「屍、と言うよりはただのこの世に未練たらたらなゾンビだがな」
「あ、それ自分で言っちゃうんですね」



触角ちょろりんだなんて本人に言ったら殺されそうだな‥‥とふと思いつつ、座って少し鈍った体を動かし始めた。
座っていたのはほんの少しの時間だったが、
気疲れするオーラを発する男を目の前にしていたため、だいぶ体に疲労感が溜まっていたのだ。



『んー‥‥話が済んだのなら、ちょっくら運動してこようかな』
「どこに行く気だよ、こんな時間から」



屈伸したり伸びをしたりし始めたあたしを見て、赤月が口を挟んだ。
腕を引っ張ってから手首足首をぶらぶらさせて、やっと告げたあたしの答えは‥‥――



『どこって‥‥ゾンビ狩り』



――今日の相棒は何にしようか‥‥――


誰の顔を見ることなく一方的に答えた。
そしてそのまま事務所を出ようとした時、腕を捕まれた。



「先越されてたまるか!俺らも連れてけ」
「そうですよ!今さっき仲間宣言したばかりじゃないですか!!」
「俺は別に仲間は要らないが、お前一人に獲物を狩られても困るからな」



ホント相変わらず‥‥。
赤月知佳、橘思徒、紀多みちる‥‥皆あたしと真逆なタイプだわ。
3人似てないのに、それぞれがあたしとかけ離れてる。



『はぁ‥‥ま、確かにそうだわな』



一応これから仲間なんだし、手を貸し合うわけだし
うまくやって行くには協力するしかないか。



『なら、早く行こう・・・』
「ったりめぇよッ!!」
「いちいち騒ぐな、赤月」
「まぁまぁ‥‥」



あたしはこれから、こいつらと時間を共有してどうなっていくんだろう。
全然想像がつかない。
だからこそ、しがみついて行くしかないのかもしれない。
これからの苦悩を考えてみて、あたしの選択は間違ってたかもしれないと思ったが
今さらどうにもならないわけで‥‥。



ま、とりあえず生きてみますか。



【生きる】

簡単だけど、意味の深い言葉。
あたしにできるかわからないけど、やるしかないのなら‥‥



やってみるだけやってみよう。




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