生きて紡ぐ詩
「はよーっす」
「あ、おはようございますチカ君」
「‥‥‥」
いつもとは違い、遅刻する事なく教室に入れば
既にシト達が自分の席に座っていた。
シトは俺を一瞥するとすぐに何事もなかった様に本に目をやる。
ふと昨日の転校生、を思い出し
どこにいるか探してみた。
「おいいるか?」
一番近くにいた、いかにも優等生な男子に声をかける。
俺の姿を見た瞬間、そいつの表情が変わった。
「ひっ!?あ、赤月君‥‥さんなら職員室にいいい行きましたよっ」
「チッ‥‥」
くっそ。掴まんねぇな。
どかっと自分の席に座るとまた怯えた様な声が聞こえた。
「さんがどうしたの?」
1人の女子が声をかけてきた。
後ろにそわそわしたのが隠れている。
「別に。聞きてぇ事があるだけだ」
「え、なになに?どんな事?」
「お前らには関係ねー」
女子って何かと聞きたがる。
そのせいで起きた嫌な思い出がどんどん浮かんでくらぁ。
あーイライラしてきた。
「シトぉ、パシりぃ、後は頼んま」
俺便所行ってくっから。
そう言い、え。チカ君!?と驚くみちるをよそに教室を出た。
+++
「さん、新しいクラスはどうです?」
『ええまあ、結構楽しいですよ』
面白い奴らもいるし‥‥という言葉は隠し
あたしは作り笑いを浮かべた。
クーラーの効いた職員室に
あたしは昨日からの担任に呼び出された。
内容は先程の至ってベタな質問。
呼び出す事もないだろうに。
ま、涼しいからいいけど。
「何かあったらすぐ先生に言ってください」
『はい、ありがとうございます。それでは』
こういうのも凄くめんどくさい。
廊下でバッタリ会った時に聞いてくれてもいいのに。
そう思いつつもあたしはニコリと笑った。
『あー‥‥そろそろいるかな?』
教室に向かおうとしていた時に呼び出されたため
まだあたしは教室には行っていないものの
下駄箱を見る限りではまだ橘と紀多さんしか来ていない様だった。
‥まあ遅刻しそうな顔ではあるけど
『‥‥あ。』
昨日の朝の事を思い出した。
あの100円、多分赤月が落としたんだろう。
ああいうタイプは金に煩そうだし
後でちょっと尋ねてみようか。
その100円をポケットから取り出し、指で弾いた。
円を描いて落下してくる。
それを空中キャッチしようとしたが
100円は指の間からすんなり抜けた。
―チリンッ――
廊下に響く小さな音。
『あ。いけね』
赤月のだった‥‥そう拾おうとした瞬間‥――
「金の音ーーッッ!!!」
『うわっ!?』
驚いた。
赤月本人がいきなり現われて素早く100円を拾った。
『あ、かつき‥‥くん』
「ああ?‥‥‥あー!!!!」
100円を拾って幸せそうにしていた顔が
あたしを見た途端に驚きに変わった。
「テメェ、逃げたんじゃねぇのかよ」
『や、職員室に呼び出さただけだし』
「あ、そういやさっきクラスの奴がんな事‥‥」
顎に手を当てて、思い出そうとしている赤月。
なんか、さっきからコイツ可愛いんだけど。
『くっ‥ははっ‥//』
「何笑ってんだよ」
『いやぁ、赤月君てなんか面白いなと』
「ああ?んだそれ」
可愛いなんて言うと怒りそうなので、面白いと言っておいた。
今の、よく分からないという表情も可愛いと思う。
こういう反応、あたしはあんまりしないから。
―なんか生きてるって感じがする―‥‥
「とにかくッ‥この100円拾ったの俺なんだからこれ俺んな!」
『あーそんな目ぇキラキラさせなくてもあげるって』
てかもとは君のっしょ?
やっぱり面白いと思った。
「いいのか!?」
『どーぞ』
嬉しそうに100円をしまう様子を眺めていると、HRの始まる余鈴が鳴った。
『ほら行かないと遅れちゃうよ、赤月君』
「あーよ。てかマジ助かったべ。昨日どっかで100円落とした時はマジ死ぬかと思った」
100円ごときで大袈裟‥‥
そう思いつつもニコニコ笑う赤月を横目で眺めていた。
『で、赤月君さ、あたしを探してたんじゃないの?』
は壁にもたれ掛かって尋ねた。
チカは今やっと思い出した様にを見る。
「今この場はちょっとな‥‥放課後、時間あるか?」
『ない‥‥って言ったら?』
「そんなの、無理矢理にでも連れてくだけだし」
にやりと笑って言い切ったチカ。
は短く息を吐き、笑い返した。
『言うと思ってたからね。まぁお好きな様にどうぞ。誘拐でもなんでも』
「ホントわけ分かんねぇよなお前。普通誘拐していいとか言う?」
何とも言えないその面に
いつか落書きしてみたいなとふと思う。
まあ、どうでもいいんだけど。
『まぁ、どうせバイト先に連れてかれるんだと思って』
「まぁな」
『じゃあ危険もなし、面倒事もなし。いいじゃん、そちらのべっこーさんとやらがあたしの代わりに話してくれた方が楽だし』
窓を通して空を見てみた。
ああ、いい天気だなと呑気な事を考える。
このまま今日は何も面倒事が起こらなければいい。
「‥‥ふぅん。なら今は何も聞くめぇ」
『そうしてくれて助かるよ。んじゃ、そろそろ教室にでも‥‥』
「ん、ああ。まあ俺は遅刻でもなんでもいいけど」
呼鈴からもうすぐ4分。
早くしないと遅刻になってしまう。
こんにゃろ。先生あたしの事考えて呼び出せよ。
「つかこのままサボるかなぁ、面倒だし。つか眠いし」
『そ。じゃあまた放課後に』
「逃げんじゃねーぞ」
『分かってるっつーの』
赤月を見送る事もなく、早歩きで教室に向かった。
ギリギリ間に合いそうだし
走るのはちょっとな。
そんな風に歩いていれば
あっという間に自分の教室に着いた。
のんびりドアを開けたはずが
一気に注目を浴びる。
視線が自分一点に注がれるってのは
気分がいいものではない。
『お、おはよ。えと、何?』
周りを見渡して問うてみる。
すると、橘と紀多さんと目があった。
「さん、2日目なのに遅刻なのかなって思ったんだよ」
ニッコリとした橘が答えてきた。
うっわ、出た。
3度目の営業スマイル。
きっと学校ではこれがいつもの事なんだろう。
『担任に呼ばれてたのと、赤月君と少し話してたからね』
「赤月と?」
『うん』
「‥何て話したの?」
『結局何も。後にしようって事になって』
自分の席まで行き、椅子を引く。
ギギッ―と鈍い音が鳴った。
そうなんだ、と言う橘はまだ笑っていて
腰を降ろしながら、学校ではいつも猫かぶりか‥‥なんて思った。
「じゃあまた放課後に‥‥」
ぞわっ―耳筋に何かが走る。
橘の顔がすぐ近くにきていた。
後ろから耳元に囁かれた言葉‥‥――
普通に言えっての‥‥
離れた後もまだ少し余韻が残っていた。
***
「さん、今日帰りにどっか行かない?」
帰りのHRが終わり、担任が教室を出て行った直後
クラスメートの女の子が声をかけてきた。
『あーごめんね。ちょっと先約が・・・』
「そっか。じゃあ明日は?」
『引っ越してすぐだから、準備終わってないじゃん?だからまだ何とも言えないなぁ』
そう言うと、残念そうな顔をされた。
でも事実だし・・・仕方ない。
申し訳ないとは、本当に思ってるんだけども。
それにまだ、あいつらとの事もあるし。
「だよね。無理に誘ってごめん」
『無理じゃないよ!!こっちこそごめんね』
「ううん。もうちょっと考えなきゃね!それじゃあまた明日!」
『うん。また明日!!』
手を振って元気よく帰っていった。
女子高生はあれくらい元気な方がいいのかもな、やっぱ。
あたしはどうだろ。
元気はあるけど、面倒・・・みたいな・・・?
ってそれじゃだめだな。
『はぁ・・・・・・それもこれもすべてクソ親父のせいだっての』
いつの間にか誰もいなくなった教室で一人ため息をついた。
Zローン組は帰ったのか、もういない。
待ち合わせなどしていないからどうしたらいいのかわからなくて
適当に教室でぼーっとしてたけど
もしかして、Zローンで待ってるつもりなのかもしれない。
あ・・・それ一番ありえるかも。
面倒くさ。
立ち上がろうと机に手をついたその時、教室のドアが開いた。
赤月達かと目をやってみる・・・――
「っ・・・さん・・・どうして!?」
知らない男子生徒だった。
同じクラスでもない。
名前を覚えるのは苦手だが、顔は覚えられる。
見たことあるかないかくらい簡単にわかる。
でもこいつは、知らなかった。
『失礼だけど、誰?同じクラスの子・・・じゃないよね?』
「あーうん・・・えっと・・・」
『何しにこのクラスへ?』
「えっと、その・・・」
なんだか変だ。そう思った。
挙動不審。
それが一番しっくりくる。
『こういう事言いたくないけど、変だよ?』
ゆっくり近づいてみれば、一瞬びくっと反応を見せた。
『・・・どうしたの?』
幅1メートル。たった1メートルの距離に立った。
だがそれが・・・まずかった。
「っ」
『え!?』
急に腕をつかまれた。
左手首をきつく締め付けるこの男・・・。
いったい何がなんだか・・・。
それに急に名前呼び捨てだし。
てかあたし、こいつ知らないんだけども。
「俺、実はと前の学校で同じだったんだ」
『は?うそ!?』
知らない知らない。
あたしぜんっぜん知らない。見たことない。
前の学校って・・・今回が転校初めてだからあそこしかないよなぁ。
まあ、実際転校なんてしてないんだけどさ。
仮入学・・・みたいな。
ってそんなことはどうでもいいか。
とりあえず、腕放してもらおう。
「嘘じゃない。俺、の事ずっと見てて」
『あの、腕を・・・』
「まさかこっちに来て会えるなんて」
『だから、手、痛い・・・』
「俺すげぇ嬉しくて、ちょっと出来心で教室に・・・」
『なっ!?』
それって、まさか・・・。
いやいや、ないよね。そんな今時・・・。
それに顔も性格もよくないこのあたしを
どうしたら好きになるっていうわけ?
まったく離そうとしない腕。
だんだんいらついてきて、振り払ってしまった。
「え!?」
『手、痛いって言った』
軽く睨み付けてやると、男は黙ってしまった。
沈黙はまた面倒くさいので、あたしから口を開く。
『ごめん。悪いけど、用事あるから・・・』
「待てよ!」
『なんか、知らない人に呼び捨てられてしかも命令されるの嫌なんだけど』
性格悪くてもいい。
なんか面倒くさそうだ、こいつ。
あたしは恋愛なんて今までしてこなかったから
相手の気持ちなんて分かりゃしない。
あたしはずっと、戦う事しかしてこなかった。
異世界に渡って、いろんな奴らと戦って強くなって。
正直、仲間って奴も知らない。
味方をすることはあっても、仲間とは思わなかった。
あたしはそうやって生きてきたから。
だから人の気持ちなんて知らない。
「俺、の何でもできるところに惚れたんだ!」
『・・・不器用だから運動や喧嘩以外何もできないんだけど』
何見てきたんだ、こいつ。
ああもういいや。帰ろう。
横を通り過ぎようとした・・・が、また腕をつかまれてしまった。
逃げられないようにか、両腕を・・・。
「それがカッコよかったんだ。それで・・・・・・絶対俺のもんにしたいって」
『っ!?』
ダンッ――
机にたたきつけられる体。背中に痛みが走った。
『っー・・・もっと加減考えろよな』
「それ。その言葉使い。普段使わないギャップとかもたまんねーの」
人のことは言えないが、急にこいつの口調が変わった。
きっと素は、こっちなんだろう。
最初のよそよそしい態度はどこ行ったんだ。
本当、何様、こいつ?
むかつく・・・。
足を振り上げようと、力を入れた瞬間――
「おいいるかー?」
予期せぬ訪問者が現れた。
「はあ?誰お前・・・」
『なっ・・・赤月っ・・・!?』
赤月知佳だった。
驚いた拍子に足に入れた力が抜け、だらんとする。
「何やってんだよ、オメー・・・」
机に押し倒されている状況をまじまじと見つめ、こう言った。
赤月っていつも急に現れるのな。
冷静に思いながら、再び足を振り上げた。
『何って・・・』
バキッ――
「ぅっ・・・」
『ちょっと襲われてたっぽいね』
「ぽいってお前な・・・」
に蹴られ、机や椅子にぶつかった男は
そのまま気絶していた。
それをぼーっと見ている2人は何の変化もなかった。
『てか、赤月って校内じゃ有名なんじゃなかったのかよ』
「知るか。つか学校でその口調は使わないんじゃねーのか」
『疲れんの』
「あそ」
伸びきった男子生徒をそのままにしていいか悩んだが
どうしたらいいのかも分からないため、そのまま放置することにした。
犯罪者であることには間違いないし
なんかあったとしても自己防衛でかたがつくだろう。
「まー何だっていいや。ほれ、行くぞ」
『どこに?』
「俺らんとこ。Zローン」
『あーはいはい。やっぱりな』
あたしは赤月に連れられるまま、歩いた。
Zローンに着く頃にはもうあたりは薄暗く
そろそろゾンビ狩りが始まる時刻ではないかと思う。
この場合、話よりも先にゾンビ狩り優先じゃないのか。
と思いつつも、借金などしていないあたしは
返済しなきゃいけないわけもなく
ただの金稼ぎなので気にしてなかった。
でも、こいつらは違う。
『赤月、先にゾンビ狩りじゃなくていいのか?』
「ああ?あー・・・そっかおめーいなかったもんな」
あたしが教室にいたときの事を言ってるのだろうか。
つー事は、その間に何かあったって事か。
『何があったんだよ』
「話、もう聞いてんだ、渡し守に」
本人に聞くんじゃなかったっけ?
まあ、面倒事が減ったから、いいか。
でもなんか釈だ・・・。なんとなく。
『・・・・・・なら何であたしはZローンに?』
「渡し守が呼んでこいってよ」
『それはすぐ終わる事なのか?』
「あったりめーよ。んでもってちょっぱやでゾンビぶっ殺すから」
『・・・あーそうですか』
話しながら、感じる。
赤月達、Zローンに関わってる奴らって本当変わってる。
何を考えてるのか分からなくて、
あたしが振り回されるってのは、親父以外、そんな経験なんて殆どなかった。
その数少ない経験の中でもダントツで、
この赤月知佳が一番何考えてるのか分からない人物だと思う。
『親父・・・何か企んでそうだな・・・』
「あ?何か言ったか?」
『いや別に』
こいつらと一緒に過ごしたら
生きる意味、見つかるのだろうか。
いや・・・なんか。
何故だか分かんねーけど
生きる意味
生きてる実感
いろんな事が分かりそうだとあたしは赤月を見ながら思った。
PAYMENT:05 思い