生きて紡ぐ詩
暗闇が空を覆おうと迫ってきた夕刻――
NOSバーガーで時間を潰しつつ、
気にかかっていたクラスメートの事を考えていた。
登校初日が終わったあたしは、この辺の事を知っておこうと辺りを探索し
適度に学習した後ここにたどり着いた。
それにしても、あの2人‥‥――。
何でこんなにも気になるのか・・・。
やはり何処からどうみても、どの角度から眺めてみても普通の16歳だ。
いや、どうやら2人は軽くアイドル的な存在らしい。
ある意味普通ではないのかもしれない。
今日、女の子達がどれほど語ってきたか‥‥
でも名前・・・肝心の名前を覚えていない。
というか、聞いた覚えすらない。
とにかく、、気にしないのがベストかな。
特にする事もなく、数時間前から同じ場所に座っている。
お金ももったいないので最初に1回買っただけだ。
食べ終わった包みが無残な形になるまで手の中で転がした。
ぼーっとしていれば、時間だけが過ぎる。
腹ごしらえはもう済んだ。
行くか――・・・。
もう辺りは真っ暗だ。
ゾンビが出てもおかしくない。
人通りの少ない、先日大きな事故の起きた場所の近くに行ってみれば
思った通り、嫌な気配が充満していた。
――血に飢えた‥‥バケモノ‥――
『お前らって人間よりも魔族の方が好きなんだろ?』
そうクソ親父に聞いたんだけど。
にやっと笑ったは、静かに右手から光を生み出した。
『さあ来いよ、ゾンビ共。』
チャキッ――。
長身の刀が現れ、右手がそれを力強く握った。
背後に嫌な気配を感じ、ぞわっとした感覚が背筋を流れる。
背後だけじゃない‥‥数匹のゾンビが、俺を囲んだ。
『今日の得物は刀だぜ、ゾンビさんよぉ。所詮雑魚だし金もあんま入らねーし‥‥。』
ブツブツ言いながら、刀の装飾を眺める。
何匹かは重要じゃない。求めてるのは、質だった。
いくら囲まれようが、恐怖など何も感じない。
『だから雑魚は雑魚らしく、あんま俺に手間かけさせんなよ』
刀の峰を自身の肩にもたせ掛け、は再びニヤリと笑った。
『さ、楽しく運動しよーや』
土が小さく舞った。
一斉に襲いかかって来るゾンビ。
それも犬や猫や烏‥‥動物ゾンビばかりだ。
元人間‥いねぇな。
ザンッ――。
飛び掛かって来る醜い動物を、視界の隅で捕らえてぶった斬る。
は探していた。
こんな小動物、興味はない。
自分が求めていた獲物がいない事に少し苛立ちを覚える。
だが、コイツらがいると言う事は、作った人間もいるはずだ。
鼈甲はそう言っていた。
『お前の親、何処にいんだよ?』
そう尋ねながらも、答えようとしない・・・
いや答えられるはずのないゾンビをは一気に斬った。
―つまんねぇの‥‥――
自分の生には無頓着だった。
でも、力のない動物を自分勝手に殺してしまう奴は気に食わねぇ。
このいらつきはそいつを送るまでは治まりそうもないようだ。
そこにいた元動物達が綺麗な光の塊になって空へと舞って行くまで‥‥
そう時間はかからなかった。
『葬送完了っと』
言葉と同時に右手から刀が消える。
その残像を見つめながら、ため息をついた。
『あ、いくらだ、今の?』
通帳を【無】から取り出し、広げて見てみる。
その桁を見て、こんなもんかと頷いた―・・その時‥・・・――
「んがァ!!なんで1匹も残ってねーんだよッッ」
聞き覚えのある声がした。
咄嗟に振向けば、あの2人とやっぱりメガネの少女がいた。
「あなたは‥‥?」
「さん‥?」
こちらは名前を知らないが、あちらはどうやら覚えていてくれたようだ。
銀髪は苛立ちを、黒髪は警戒心を、女の子は焦りを露にして近付いてくる。
『あー‥クラスメートの‥‥?』
「ああ、橘思徒だよ。こっちが紀多さんで」
「き、紀多みちるって言います」
「こっちの五月蠅いバカが赤月」
「バカって何だクソシト野郎ォー!!」
五月蠅いのはいいんだ‥‥。
と呑気に考えていると、赤月とか言う奴が突っ掛かってきた。
「なぁオメーこんな時間にこんなトコで何やってんだ?」
『探索だよ。あたし来たばっかだから知っとこうと思って』
コイツらは変な感じがする。
だから正直に話せるわけがない。
まあ信用できたからと言って、ゾンビ狩りだなんて馬鹿げた事言えないけど。
「さん。好奇心旺盛なのもいいけど、女の子の1人歩きは危険だよ?」
今度は橘という方から素敵な営業スマイルが返ってきた。
この笑顔が余計に怪しかったりもする。
何年もやっているような慣れが感じられた。
『大丈夫。あたし強いから』
「いやでも危険ですよっ。この辺にはまだ‥」
「「みちる」」
何かを続けようとした紀多みちるの言葉を、赤月と橘が書き消した。
『えーっと、ホントに大丈夫だよ、紀多さん』
ゾワッ・・――。
不意に冷たい風が吹いて来た。
一瞬で彼女の表情が変わる。
それに気付いた男達が、辺りを見渡し始めた。
「さん、君はもう帰った方がいい‥‥」
『え?』
何を言ってるんだコイツらは。
帰るのはアンタらじゃないのか。
ただの人間は早く帰った方がいい。
は動かなかった。
だが【動かなかったの】が一瞬で【動けなくなった】に変わった。
「おい女ァ、死にたくなかったら早く帰んな」
赤月と橘の右手が、‥取れた‥‥‥。
‥何だ、コレ‥‥。
そしてそれは、2人の手の中で交換され、何も無かったかの様にくっついた。
「チカ君シト君、あそこですっ」
紀多さんが遠くの方を指差した。
そしてその言葉によって・・・、は感づいた。
『なぁるほどね』
呟いた言葉は、誰の耳にも入らなかった。
『腕取れてくっつくって‥‥アンタらバケモノ?』
「んなよく分かんねぇもんじゃねぇよ。‥チッ。コイツに見られた事は後で片付けるぞ、シト」
「そんな事は最初から分かっている」
ポゥッ――。
2人の手から、それぞれ刀と銃が現われた。
エクトプラズム‥‥やっぱりだ‥‥コイツら鼈甲んトコのゾンビっ!!
この、人間とは違う気配はコレだったか‥‥。
「みちる、さんを逃がさない様に」
「えっ!?シト君ッ!?」
橘の言葉に、紀多さんは困惑した表情で、俺を見た。
俺は代わりに、笑顔で答える。
『詳しくは分かんねぇけど、取り敢えず全部大丈夫だよ、御三方さん』
その時、何かが自分目掛けて降って来た。
「ヴォォォオオッッ!!!」
「なっ!?」
「そっちか!!」
突然の事に対応が遅れた2人。
だが、わざわざ確認しないでもそれが何か分かったは
見る事なく感覚だけでソレをぶっ飛ばした。
「な、何‥‥?」
鈍い音を立てて、ソレは錆びてボロボロになったドラム缶の上に叩き付けられる。
『ね?』
そう言うの右手は、紅く光る炎に包まれていた。
――「俺らと同じ‥‥ゾンビ‥?」――‥‥
PAYMENT:03 証明