生きて紡ぐ詩



、16歳。
高校2年の夏休み。
あたしは今、校内に墓地のある大きな高校の前に立っている。

先日鼈甲という彼岸人に出会い、変な取り引きをしてしまった。
ボランティアという事で関わるとは言ったが
まさか本当に命の融資まで受ける事になろうとは。

まだあたしは一応、人間という類に含まれている。
バケモノであっても、分類に分けてしまえば人間だろう。

命を落とすかもしれないアルバイト。
あたしの利益は金儲けと、生きる意味。

だけど何故、あたしにゾンビを倒してもらいたいんだろうか。
話を聞く限りじゃ、他にも数人合法ゾンビがいるらしいし。
ちゃんと手駒がいるのに何故あたしが・・・。


もしかしたら・・・。
あたしを今のうちに手駒にしておかなきゃならない出来事がいつか来るのだろうか。


利用されるのはご免だ。
何考えてんのかは知らないけど・・・あたしはあたしの生き方でやる。

それにまあ、契約には1度死んでもすぐに生き返られるというメリットも含まれてるし
適当にゾンビぶっ倒して、金儲けでもして



そんでもって・・・





あたしは自分の在るべき場所に行ってやる。















+++








「黒羽学園ねぇ・・・。本当、いかにも宗教って場所なんだな」



早朝4時。携帯の番号を教えたはずのない奴から電話がかかってきた。
少しの会話を交えた後、電話が切れたと同時に家のインターホンが鳴った。
こんな時間なのにもう覚醒していたのか、クソ親父が玄関の戸を開ける。

話し声が聞こえ、様子を後ろから見ていた・・・



、今すぐ支度をするんだ」



寄り道せず、真っ直ぐに向けられた瞳。
振り向いたその表情は、あたしの大嫌いなニコニコスマイルだった。

ハァ、思い出すだけでもいらいらする。
と同時に、寒気。両腕を組んで擦りながら、校舎を見上げた。

と、その時――・・・



「退け退け退けーーーーーっ!!!俺の前を歩くんじゃねーー女ァっっ」
「・・・ん?」


背後から凄い勢いで男子が走ってきた。
格好からして、ここの生徒だろうか。



「くそっシトのヤロー・・・覚えてやがれーー!!!」



退けと言ったわりには、綺麗にあたしを交わし、校門を乗り越えて入って行く彼。
横を通り過ぎた瞬間、銀色がふわりと視界に入った。



「・・・何だったんだろ」



先ほどの男子が消えた校門を眺めて呟く。
ふと、足元にキラリと輝く何かが見えた。


見ると、それは100円だった。


「・・・ひゃく・・えん・・・?ラッキーじゃん」



ぐっと拳の中に握り締め、そのままポケットに流し入れた。

それにしても、どこの高校も流石に夏休みに入っているというのに何なんだ。
黒羽学園って、変わってんなぁ。

神への信仰行事があるらしい。
生徒が参加してるかどうかはよく分からないが、
黒羽学園の礼拝堂でミサが何度か行われたりするとか。

生徒は7月いっぱいまで授業があり、本格的な夏休みは8月から。

だからと言って・・・



「何であたしが夏休みの間黒羽学園の生徒にならにゃいかんのだ」



そうなのだ。
何故か・・・・・・もう何度『何故か』を考えたのだろう。
分からない事だらけで、頭がパンクしそうになる。

あたしはゾンビを殺すだけ、そう思って引き受けたこのアルバイト。

それなのに・・・。
どうやらあたしの学校が始まるまで、
昼は黒羽学園の生徒として学校に通い
夜はゾンビ狩り、
そして寝食は黒羽寮で生活しろとの事。

ここまでする意味が分からない。
大嫌いなクソ親父の命令だった。


彼岸人同士、仲がいいのかはどうでもいい。
いや、多分仲は良くないのだろうが。

娘を全面的に任せる、と鼈甲に向けて背中を押された。
ワケも分からないまま、
あたしは鼈甲の連れの由詩という可愛らしい男の子に手を引かれ
これまた怪しい金融会社に連れて行かれたのだった。



そこで出会ったのが可愛らしい女の子。
だが、振る舞いがやけに大人びていて、彼女は何者かと一歩引いて接していた。


「初めまして、黒羽学園理事長の久世霜月と申します」


どうやらその子は黒羽学園の理事長さんらしい。
他にも重要な役があるらしいが、それはまだ分からない。

この可愛らしい理事長さんに連れられるまま、
あたしは黒羽学園へとやってきたのだった。






+++





「初めまして、です」


偽りの笑みを浮かべ、愛想良く振舞う。
こんな時期に転校生かよ、と辺りにざわめきが飛び交う中
一風変わった空気が一部流れていた。


視界に入る、黒髪と銀髪。



「・・・あ」
「どうしたの?さん」
「あ、いえ。何でもないです」



あの銀髪の方、今朝の子だ。
まさか同じクラスだったとは・・・――。


だけど・・・。
何か・・・・・・違和感がある。
何だろう・・・他と何かが、違う様な・・・。


凝視していると、銀髪の方が睨んできた。
髪型や服装からしても分かるが
どうやらアイツは不良みたいだ。


ガンを飛ばしてくる彼をあえてあたしは気に留めず、
言われた通り軽く自己紹介し、言われた通りの席についた。



どうせ数日間だし、適当にすればいい。



そう思って時間を過ごす。
休みになればいろんな生徒から声をかけられ
そのたびに愛想笑いを浮かべ・・・
正直面倒くさい。
でも、できるだけナチュラルに溶け込む必要があった。
そのためには、面倒でもやるしかない。

暫くして、黒羽学園生活1日目が終わった。
だが始終、教室に入ったときから感じていた違和感が消える事はなかった。



「まさか・・・ね」



黒髪と銀髪の2人と、眼鏡の女の子が話している様子を
曲がり角に隠れてそっと伺う。



・・・何してんだろ、あたし。



「あっはは。ないない、あの3人はどっからどー見てもフツーじゃん」



自分の不可解な行動に自嘲して、あたしはその場から去った。
歩きながら両手を組んで上に上げ、軽く伸びをする。



「うし、今夜も・・・稼ぎますか♪」



鞄を肩にひっかけて、夜までどこで時間潰そうか、なんて思っていたその頃。
あたしは気づいてない後ろで、あの3人も同じ様に考えていた。



「今日こそは大金手に入れるぞ、シト!」
「お前が足を引っ張らなければな」
「ああっ!?何だテメー、クソシトッ」
「ちょっと、待ってくださいよ2人とも!ここ学校ですよッ」
「・・・チッ。後で覚えとけよ」
「いいから行くぞ」
「へいへい、じゃ、まあ・・・・・



・・・―――稼ぎますか―――・・・







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