PAL OF ROBBER
「ここが酒の街、SPIRITSだ」
夕刻、黄色いコートを着た少年と赤いスカーフを首に撒いた黒い鳥が街の入り口に立っていた。
「スピリッツねぇ‥‥何があんだ、この街に?」
「さあな」
「さあなって‥‥まさか何も調べずに!?」
「そのまさかだよ、キール」
輝くものは星さえも
貴きものは命すら
森羅万象たちまち盗むとさえ言われている王ドロボウ――
今度のお宝は酒の街と呼ばれる【SPIRITS】という街にあるという‥‥‥
「ま、気楽に行こうぜ。まずは情報収集と‥‥」
「寝床の確保だな」
街並みに入って行く二人。
だがそこに
その姿を目で追う者がいた。
「‥‥見つけた」
Кing Θf
βαηdiτ Jing
―origin―始まり―
「お兄さん、今夜は三日月だね」
「んー、確かにそんな時期かもね」
この街にあるお宝を求めて来たものの
全く情報が得られずただ呆然と歩いていると
後ろから同じ年頃の、緋衣を纏った女の子が声をかけてきた。
「お兄さん見ない顔だけど、旅の人?」
「まあそんなもんかな」
まだ顔は少し幼く、背も自分より20cm近く低い彼女は見上げる様に聞いてきた。
「もしかして、街のお宝目当てだったり?」
「!」
この街にある宝は住民にすらあまり知られていないはずだった。
なのにこの子は知っている。
「君は何でそんな事を聞くのかな?」
「私、この街を統べてる者の孫なの」
「市長さんの娘さん?」
「市長とは言わないんだよね、この街では」
「?」
「正式じゃないから」
「つまり勝手にやってるって?」
「‥‥そういうワケじゃないんだけど」
彼女はそれだけ言うと少し下を向いて黙り込んでしまった。
「俺ドロボウなんだ。お宝について教えてくれないかな」
「市長モドキの孫にドロボウだなんて名乗っていいの?」
彼女はくすっと笑って俺を見た。
「まあ、言わなくても何となく分かってると思ってさ」
「お兄さん、面白いね。ドロボウとは思えない」
ニコニコと笑う今の彼女を今宿屋で寝てる相棒が見たら、きっといつもの口説きが始まるんだろうな。
「じゃあ特別にヒントをあげる」
「ヒント?」
「そう。別に私街のお宝に興味ないから」
「君は興味なくてもお祖父さまはどう言うかな」
「お祖父ちゃんだけじゃない、お宝の事を知ってる者は皆興味ないわよ」
その言葉に疑問に思ったが、いい?と聞かれ、ジンは一度だけ頷いた。
「ヒントはね‥‥――
草木も眠る丑三つ時
水盆に碇を象る砦
頭の黒い鼠、振り向けば
九つの牛が姿を現す
秘鍵を握りしめた、月が姿を消す刹那
青い眼をした女性を目にするだろう‥‥――」
+++
「青い眼をした女性ねぇ‥‥」
あれから別れた彼女に少し違和感を感じながら宿屋に戻れば
何処行ってたんだと今にも食いつきそうな勢いで黒い物体が飛び掛かってきた。
「ダメだ、ぜんっぜん分かんねぇυ」
「難しく考える事じゃねーと思うぜ、キール」
昼間彼女に聞いたヒントを相棒に話すと、小さな脳みそをフル回転させながら体までもが回転しだした。
「はぁ‥愛しのブロンドに青い瞳‥‥ああっ俺の女神よ!!」
空中を抱き寄せキスを始めるキール。
「現実逃避をするには早いぜ」
このヒント、あの短時間で考え出した様には思えない。
予め用意されていた様な言葉だ。
もしかしたら‥‥既にお宝は誰かが見つけているのかもしれないな。
宝が何か知っているから、宝の存在を知る者は興味がないと言えば辻褄があう。
ま、宝が何であれ
ここで食い下がるのは王ドロボウじゃないな。
「草木も眠る丑三つ時は、
気味悪いほど静かな真夜中。つまり午前2時から2時半までの事を言うんだ」
「って事はその時間にならないといけねーわけだ」
「そういう事。今のうちに仮眠とっとこうぜ」
+++
宿屋に戻って少しだけ仮眠を取り、
することがなくなればヒントを解読し、2人は夜中になるまで時を待った。
「水盆に碇を象る砦‥‥。砦‥‥はあそこだな‥‥」
「おいっジン!俺を置いていくなよ、おい!!」
一人先に砦へと向かうジンに後を必死で追うキール。
人里から少し離れた場所に砦はあった。
「水盆に碇を象る‥‥」
「ゼェッ‥ゼェッ‥‥ジン!もっと相棒の事を考えろっっ」
横で呼吸を整える相棒を余所にジンは集中して考える。
言われた事を口ずさみながら、周りを見渡した。
「砦から見えるのはこの広大な海と三日月だけ‥‥‥っ!‥‥そうか!」
自身が立つ大きな砦。
ここまで来る途中に小さな池があった。
時間がないとすぐに引き返し池に向かう。
「ちょっと待てよ、何処に行くんだよ、ジン!」
やっと心拍数が戻ってきたキールだったが、ジンが方向を変え走り出した。
「アイツ俺を殺す気かぁ‥‥υ」
羽を必死で動かし、ジンの後を追った。
+++
「あの子‥‥最初から俺に宝を見つけさせるつもりだったのかもな」
走りながら呟いたジン。
池は三日月の真下にあった。
池を挟んだ反対側には剣を象った記念碑が突き刺さっている。
「なるほどね」
池に沿って歩き、剣の一番下が三日月の中心と重なる位置に移動する。
傾いた三日月が剣と重なり、剣の柄の装飾が碇の鎖を繋ぐ場所の様に見えた。
「‥‥碇だ!」
「だな」
やっと追い付いたキールがその光景を目にし、一気に力尽きる。
「次は頭が黒い鼠が振り向く‥‥‥頭の黒い鼠なんているのか?」
地面に足を降ろしたまま、ジンに問うキール。
「頭の黒い鼠ってのは俺の事だよ、キール」
「頭が黒いってのは分かるけどよ、ジン。鼠ってなんだ?」
「ことわざだよ。頭の黒い鼠ってのは盗人の事を指すんだ」
「なら青い眼をした女性は?」
「青い眼をした女性ってのは単に外人っていうわけじゃなくて、人を迎える時の好意あふれるまなざしの事だ。
つまり、秘鍵とやらを見つけさえすればお宝への扉が開くってわけ」
振り向く二人の目先には、ひび割れ今にも崩れそうな石碑と、
その歪みの中に月の光に照らされ弱く輝く9つの穴があった。
「確かに、この位置じゃなきゃ分かんねーな」
少し移動して見てみると石碑にただのひびが入ってるようにしか見えなくなった。
「九つの牛って事は九牛の一毛。触れば崩れそうな上に秘鍵の穴はたった1つ」
「じゃあ間違えたら‥‥?」
「お宝はペシャンコだな」
「‥お前分かるのか?」
「ああ、何せ王ドロボウだからな」
王ドロボウの【直感】を信じ、一番輝いていない歪みに手を伸ばした。
そっとなぞると指先に何か突起物が触れた。
「ビンゴ!」
指を横にずらすと突起物の隣に小さな凹凸があるのに気付いた。
「‥点字‥‥みたいだ古語の」
「なんて書いてあるんだ?」
「ちょっと待て、凹凸が小さ過ぎて‥‥えー‥‥と‥‥
‥‥よ‥くこ‥‥の‥ば‥‥し‥ょを‥‥み‥‥つけたな‥」
「よくこの場所を見つけたな、か」
「た‥から‥‥がほし‥‥けれ‥ば‥‥‥み‥ぎに‥ま‥わせ‥‥‥回せばいいんだな」
その先に何も書いてない事を念入りに確認し
指を突起物に戻すと右に回した。
石碑は物凄い地響きを立て、揺れた。
「何が待ってるのかな!俺のお宝ちゃーんっっ」
数分後、音も揺れも収まり、石碑に大きな穴が現われた。
「石碑自体が扉だったわけか‥‥」
何の戸惑いもなく、二人は暗闇の中に入っていった。