やっと言えた


「アスベル、私‥‥ラントに戻って来たら言いたい事があるの」



戦いが終わり、シェリアとの別れがやってきた。
出発する前のほんの一瞬の大切な時間。
シェリアは向こうを向いたまま、俺にそう告げた。



「だから‥‥」



自分で決めた事だっていうのに、何て顔をしてるんだ。
振り向いた顔がとても不安そうで、切なげに笑った。



「俺がラントを去った時、シェリアの気持ちもこんなだったのかな」
「ア、スベル‥‥」



笑ったつもりだった。
でも頬がうまく上がらない。
笑って見送らなければならないのに
とても寂しくて悲しくて
気付いたら涙が止まらなくなっていた。



「シェリア、頑張れよな」



今度は俺が待つ番なんだ。
俺は俺のやるべき事をこなさなければ。



「俺たちのラントを守ってみせるから」



そのためにも強くなるから‥‥――



「シェリア」



俺が守ると言っても
やっぱりラントが心配なんだろ?
だからこそ‥‥――



「今はただ、後ろを見ずに進むんだ」



「‥‥はい」



少し小さな声だったが、シェリアの意思を感じた。
先程自分が言った一言を自分自身で噛み締める。



「ラントを頼んだわ。またね、アスベル」


「ああ、またな」





















シェリアが旅立ってから
どれだけの月日が流れただろう。

領主になってからは毎日が忙しくて
他のことを考える余裕もなかった。



けれど



「アスベル」



自分を呼ぶその声を
変わらない笑顔を

身に沁みて感じた途端
薄れていた感情が溢れ出した。



「シェリアっ‥‥、お帰り」



別れた時みたいに、俺は涙を流していた。
薄れていたわけじゃない。
押さえていたんだ。

寂しくならないように。
悲しくならないように。



「何でそんなに泣いてるのよ、もう」



呆れた様な表情で笑うシェリア。
その笑顔につられて俺も笑った。

シェリアは髪が伸びて一層大人っぽくなっていた。

俺はお前から見て変わったか?
強くなれたか?



「シェリア、聞いてくれ」
「本当にどうしたの?アスベル」



真剣な眼差しで見つめると
シェリアもまた、真剣な表情で見つめ返した。




「俺はまだ強くないけど、守りたいんだ」



ずっと、言おうと思ってた気持ちを今・・・――。









「俺にお前を守らせてくれないか」


「アスベルっ‥‥」








目の前の彼女は今にも泣きそうで
それでいてとても幸せそうに笑っている。

そんな彼女を思わず引き寄せ、抱きしめた。
ふわりと優しい香りが漂う。
シェリアは恥ずかしそうに、俺を見つめた。



「はい」



あの時よりもはっきりと告げられた言葉。

優しい声が耳に届く。
その事に幸せを感じて、腕に力を入れて強く抱きしめた。



「私子供の頃からずっとアスベルの事・・・」



「シェリア」



この先何があっても、守り続ける。



「好きだ」