世の中そんな甘くないってホント?
日常の朝というのはもっと静かな物だと思う。
小鳥が囀り、淡い空からこぼれる弱い日差し。
そんな中目が自然と覚めて、一日の始まりを迎える。
それが私の求めていた朝だった。
『沖田隊長起きて下さい!!仕事中ですよ!!』
私は真選組の一番隊の唯一の女隊士、です。
『起きて下さいって言ってるじゃないですか!!』
今仕事中に木の下でスヤスヤと惰眠をとっている、一番隊隊長、沖田総悟を起こしてます。
『起きろっつってんだろ!!いー加減にしろ!このサディスト!!』
この男を起こすのは私の仕事・・・。
なんか、ちょっと仲がいいとか言われて・・・こうなってしまった。
朝はもちろん、仕事中の惰眠もだ。
他の隊士達は起こすと殺されるから、人に押し付けてるんだろーけど。
はァ…なんで私が…。
ため息をついていると、やっと目が覚めたのか、沖田はムクッと起き上がった。
沖「静かにしやがれってんでィ眠れねーじゃねェか」
まったく…このバカは・・・。
『起こしてるんだよ!!眠らしてたまるか!!
仕事中だよ!いー加減にしないと副長に怒られるよ』
耳元で怒鳴るように言ってやると、耳を押さえて空いていた片手でアイマスクをずらした。
沖「なんだよ…土方なんかどーでもいいでさァ」
ふわぁと大きな欠伸をする沖田。
いつもいつも、本当に面倒だ。
沖「まさか!!寝込みを襲いに!?いやぁ!!」
沖田は胸の前で腕をクロスさせ、あの恥ずかしの象徴をしめした。
『何言ってんの!!そんな事するわけないじゃん!!
だいたい誰がてめーを襲うか!!』
沖「オイオイ、俺は仮にも上司だぜィ」
『仮にもでしょ!だいたい上司が何だっての!ってか早く起きてよ!!』
沖「はいはい・・・わかりやした」
沖田は起き上がって、のたのたと歩き出した。
その様子を後ろから見守って、もう一度ため息をつく。
毎日毎日…ホント、疲れるけど
でも
私はこのバカが好き。
なんでこんな奴好きになったんだろう・・・
好きになった頃からずっとそう思い続けてる。
***
『みんな起きろォ!!朝だよ!!仕事だよォ!!』
私は今日も隊士供を起こしている。
私の罵声によって自室からぞろぞろと出てくる男達。
一番隊から十番隊、副長局長室まで全ての部屋を毎朝廻るのはとても面倒だったが、ある意味軽い脚慣らせになるので効率が良かった。
ほぼ全員が私の隣を通り過ぎた。
だが、まだ見てない男が三人。
ふぅ〜・・・後はアイツら(隊長格)だけか。
珍しく、土方さんもまだ起きてなかった。
珍しいこともあるんだな・・・。
『副長!!朝ですよ!』
襖をバッと開けると、案の定黒い髪が掛け布団から覗かせていた。
土「ん…マヨ…」
どんな寝言っ!?
いったいどんな夢見てんだよ!!
何!?夢の中でもマヨに犯されてるの!?
顔を蒼くしながら、丸まった布団を見下ろす。
何やってんだ、この人ぁ・・・。
土「あ・・・マヨネーズ王国の入り口だ・・・」
いかん!!このままでは逝ってしまう!!
絶対やばいって!!
マヨネーズ王国はやばいって!!
いや・・・
いっそそのまま永眠しちゃってください!!
永遠にマヨネーズを吸い続けてください。
でもさすがにほかっとくのはやばいか・・・
『起きろ!!!起きんかァア!!』
罵声と同時に、おもいっきり副長の顔を踏み、その後頭を足蹴りした。
次は・・・・・・ゴリっ・・・近藤さんだ。
頭の中で言い直して、副長室の近くにある局長室へ向かう。
同じように襖をスパーンと開けて、中に入った。
『起きろゴリラ!!こちとら苛付いてんだよ!!
早く起きねーとバズーカぶっ放すぞ!!』
だが其処には、普段のゴリラとは思えぬ、
かわいらしく幸せそうな寝顔があった。
別に可愛いわけじゃないけど。
『10…9…8…7…6…5…』
5秒まではしっかりと数えていた。
だが、なかなか起きそうにもないゴリラを目にして、堪忍の緒が切れた。
『4,3,2,1,0』
―ドガァアンンッ―
爆音が部屋中に響いた。
ゴリラの顔目掛けて思いっくそぶっ放したバズーカはぷすぷすを音を鳴らしている。
近「アレ?何で俺こんな黒こげなの?
あぁちゃん、おはよう」
『腐れゴリラ』
やっと起きたのか、素晴らしい笑顔で挨拶をしてきた。
バズーカ食らって痛みがないとか最強だな、オイ。
私は捨て台詞を残してゴリラの部屋を去った。
さて・・・問題はアイツだ。
一番面倒なアイツが残っている。
沖田総悟の部屋の前まで来ると、一旦大きく深呼吸した。
『オラ、起きろ総悟』
襖を力強く開けるのも面倒になったため、普通に部屋に入り、奴の顔の前まで行った。
こちらもゴリラ同様・・・可愛い寝顔で寝ていた。
こういう風に、黙ってれば可愛いっちゃ可愛いんだけど・・・。
でも毎日毎日、こう面倒なのはごめんだ。
まったく・・・ホントなんでこんな奴好きになったのやら
顔を見つめたまま、一人考え込む私。
本当に謎で仕方が無かった。
沖「人の顔じろじろ見て何様ですかィ」
『なっ!?』
しっかりと目が開いていた沖田が下から覗いていた。
驚いて咄嗟に少し後ろに下がる。
『なんでもない!!ってか起きてたんなら早く言ってよ!
此処まで来るの無駄になっちゃたじゃんか!!』
心臓がバクバク鳴っている。
ヤバイヤバイヤバイ。
多分今の私、少し顔が赤いと思う。
沖「いえね、
こうして寝たふりしてれば、
が起こしにくると思いやして」
ドキッとした。
どうって事ないセリフなのに、
意味なんて込められてないなんてこと無いセリフなのに
心が揺れる。
『そ、そりゃ起こしにくるよ!担当だし。てっ、てかいつもの事じゃん!』
少しドモりながら言う私。
ヤバイ、なんかバレそう。
沖「いや、今日は特別なんでさァ」
『へ?』
沖田の言ってる事がよく分からなくて、首をかしげていると、一瞬のうちに視界が反転した。
『な、何!?』
天と地が逆に・・・。
そして天井と一緒に見える、奴の顔。
目の前にアイツの顔があった。
沖「もう離しませんぜィ」
にやりと笑う男。
その表情を見て、また揺れた。
鼓動がどんどん早くなる。
顔もだんだん赤さが増してきた。
『なっ…///…
どっ…どーゆーつもり!?』
驚き、焦り、恥ずかしく思う。
何が起きているのか分からない。
沖「こーゆー事でさァ」
『んっ…///…!?』
総悟は私に有無を言わせず口付けた。
ちょっと!!どーゆーこと!?
『〜っ・・・///』
言いたい事があるのに、声にもならなくて・・・
沖「顔が赤いでさァ」
私の顔を見て笑うこいつが物凄く憎たらしくて・・・。
どうしようもない気持ちが此処にある。
こんの・・・サディスト・・・
私のファーストキスを面白半分・・・・・・いや、ただのお遊びでとられた。
『…最悪…・・・乙女の心を踏みにじりやがって…』
目が少し潤んできた。
顔を隠したい。
だけど、沖田に腕を捕まれているため動かない。
沖「誰が踏みにじったってんでィ」
『踏みにじったじゃん・・・』
本格的にヤバイと思った。
早く誰もいないところに行きたい。
行かなきゃ、壊れそうだった。
なのに、沖田は離してくれない。
そのうえ、顔を耳元に近づけてこう呟いた。
沖「好きでさァ」
優しく抱きしめてくる沖田。
悔しいし、苦しいのに。
お遊びなのに・・・私は嬉しいって気持ちを持ってしまう。
うそ…うそでしょ?
そんなことありえないから・・・。
『からかわないでよっ・・・』
自分の今感じた思いをかき消す様に、自分に言い聞かせるように言い放つ私。
コイツは、最低な男なんだから・・・
なのにっ・・・
なのにっ・・・
なんでそんな悲しい顔するわけ?
なんでそんなにも真面目な顔するわけ?
沖「からかってなんかいないでさァ。
俺はが好きなんでィ」
沖「の気持ちも知りてェや
教えてくだせェの気持ち・・・」
私、私は・・・。
・・・ねぇ?信じていいのかな?
これは本気なんだって、信じていいのかな?
ふと総悟の顔を見てみる。
私くらい、赤い顔をしていて、少し噴出しそうになった。
私の気持ち?
・・・そんなの決まってんじゃん。
『…き…』
『好き!私総悟の事好き・・・』
前からずっと好きだったんだから。
わかってたくせに・・・。
アイツは絶対分かってた。
そんな気がする。
沖「マジですかィ!?やったぜィ!!
今日からは俺のもんだィ」
このサディスト…
笑顔でそんな事言われたら・・・。
もう大っ嫌いだ
でも
やっぱり大好き・・・。
沖「・・・・・・・・・」
ゆっくりと近づいてくる憎たらしくて愛しい顔。
私はそっと、目を瞑った。
END