愛しく思うのは罪?



闘志が燃える戦い。
男達は進んで戦いに参り

走り、構え、斬る

戦いが終えた後の爽快感と
消えた仲間の光に気持ちが揺らぎ

いつも違和感が心に残る








そんな男達の集まる武装警察真選組。

だが、其処に居たのは男だけではなかった。




















『そーうごっ!!』

昼寝をしてると俺のアイマスクを退けて顔を見せる女。

名は。俺よりも年下で一番の部下。





そして何より


一番愛しい存在。





は一年前、隊士募集のチラシを見てやってきた。
腕の立つ奴が来ると聞いていた隊士達はの姿を見て絶句。

まだ18もいかないあどけなさが残った女だった。
それに実力も基礎は身に付いているものの
そこら辺に居る男よりは上だが隊士の中では下。


聞けば近藤さんの知り合いらしい。

「総悟、を護ってやってくれ。」

近藤さんに頼まれたらもう断れねーし

一番隊に所属する事になって、最初はおもちゃにしてやろうと思った。
いじっても思ったよりも気が強くて崩れない事から俺は少なからず気に入ってた。おもちゃとして。


だけど、が泣いた時から
あのが俺の前で弱い所を見せてから


俺はに惹かれていった。




『おーい。いつまで寝てんの。様がわざわざ来てやってのに。』

ぷぅっと顔を膨らませ、腕を組んでそっぽを向く


「・・・眠い。」

『其処で"眠い"っ!?普通"わりぃ"とか"ゴメン"とか言ってぎゅってしてくれるもんじゃないの!?』

それはただの妄想でさァ。現実甘くないぜィ」


俺がそう言った途端、ムッとした顔を見せると両手で顔を抑えた。

『あーあ。ちゃんブレークンハートぉ』

「勝手にしてろィ」


『狽、っわ!?そんな酷い事言うの!?総ちゃんそんな酷い事言うの!?』


今のには本当に傷ついたみたいだ。
の顔がみるみる変わっていく。


『最低・・・総悟のバカ』

目の前で下を向いて呟く女を俺は優しく抱き寄せた。


「バカはお前ぇでィ。何いじけてんだ。」

頭を右手で抱えるように抱きしめる。


『・・・私がそんな事されたら怒れなくなるの知ってるくせに。最低・・・。』


俺の中で小さくなる
俺はそっと口付けた。


いつからだろう。
俺がとこういう仲になったのは


いつだっただろう。
の気持ちを聞いたのは。


もしかしたら聞いた事が無いかもしれない。
一方的な思いでこういう事をしているのかもしれない。

が何も抵抗しないから。
嫌がる素振りを見せないから。


もしかしたらの優しさに身を委ねただけなのかもしれない。

俺の心をに護ってもらっていたのかも。
隊長の俺が崩れたら、一番隊の隊士達が崩れるから。


考えてみたら不安が沢山見つかる。
俺は自分が思ってた程強くないのかもな。



唇を離すと、から小さく声が漏れた。

『長っ。ちょ、苦しかったんだけど!窒息するかと思ったよ!』

少し赤くなった顔を下を向いて隠しながら言う彼女は
やっぱりとても愛しかった。


「わりぃな」

もう一度抱きしめる。今度は抱きしめ返してくれた。


そう。こうして護られてきたのかもしれない。


もしかしたら
近藤さんも分かっていたのかもしれない。


丁度が来たちょっと前に
俺の隊の者3人が何者かの間者に暗殺された。

俺のせいだと責め続けていたから
もしかしたら、きっと。


あーあ。はめられたな。



自然と涙が出てくる。
俺は何でこんなところで泣いてるんだろう。

これじゃ、本当に俺が弱いみてぇでィ。


弱いのか、俺は。


何で、どうして俺は泣いてんだ?
こんなはずじゃなかったのに。
アイマスクをつけて寝る前はそんな思い、一欠けらもなかったのに。


『そ、総悟・・・?』


止めてくれ。そんな優しく宥める声なんて聞きたくない。
この声に身を任せてしまったらまた俺は弱くなる。


止めてくれ。



俺は咄嗟にから離れた。
の驚いた顔が目に入る。

あーあ。また何してんだ、俺。

が気になるのに。
あの泣きそうな顔が頭から離れないのに


俺はを背に走り出していた。



何処に向かってるのかも分からず。












「アレ?沖田君じゃないの」


結構走った。何処まで来たのか分からないけど息が上がって、凄い疲労感に襲われた。

傍にあった石段に座り、下を向いていたら上から声が聞こえた。

同時に視界に揺らぐ銀色。
そして天然パーマ。



万事屋の旦那だ。



「どーしたの?こんなところで」

「旦那こそ」

「んーにゃ。たまたま其処を通りかかってよ。
さっきと会ったぞ。なんか必死に走ってたよ。」


旦那。もしかして俺を探してたんですかィ?
気付いてないかもしれやせんけど、息あがってやすぜ。


「何あったか知らねーけど。つーか俺関係ねーし」

気抜けな声が逆に心地よい。
今の俺には、旦那の声が救いに聞こえた。

「でもま、深く考えすぎんのはよくねーな。
何かあったら"万事屋銀ちゃん"までコールしてね」

親指と小指を立てて揺らす。
旦那はそう言うと、そのまま俺から離れていった


「・・・何しに来たんですかねィ」



はっ。帰ろう。
なんかどーでもよくなってきた。

俺は一番隊隊長だ。
んなもん、どーでもいい。

余計なモン考えていれば己を滅ぼす。
己だけでなく、仲間も、大切なものも。

それなら自身に鬼になるだけだ。
土方さんがそうしてるように。



屯所に戻った時にはもう、時計の針が12時を回っていた。

今頃皆寝てる。
確か明日は日比野に乗り込むんだっけな。
それまでに体を休めねーと。


もう大丈夫だ。
心は揺るがない。


迷わずの部屋に向かう。
静かに戸を開くと、規則正しい寝息を立てながら
は布団を握って寝ていた。


中に入って近付き、見下ろす。
そして、の額に軽く口付けを落とした。


は俺が護る。
かつて、そう約束した様に。

今まで護れなかったもんは沢山あった。
でも、こそは、だけは絶対護るから。










『おはようございま〜す』

朝、いつもの様に早起きのが隊士達を起こす。
皺くちゃの顔したおばちゃんの声で起きるよりも、の声で起きる方が気分がいい。

まだ遠くに居るせいか、小さいの声を俺は目を瞑って聞く。

「・・眠・・・。」

一度欠伸をする。大きな欠伸。
仕事中に眠気に襲われないように。

アイマスクを首にずらしてゆっくり起き上がる。


「・・・今日確かめてみるか」

俺の気持ちを。
の気持ちを・・・。





***



朝食を終え、隊服に着替える。
とはまだ話していない

というか、

会っていない。





俺が無意識に避けているのか

はたまたが俺を避けているのか








とにかく俺はこの戦いを終えてから



に問うてみる。







アンタは俺が好きですかィ?







って










「おーしお前らぁ、気張って行くぞぉ!!」

おー!と辺りで隊士達が勢を入れる。
今から体育大会ですか?とでも言いたくなる。

辺りを見渡してみる。

俺の後ろに、が居た。


「行くぞお前ら。絶対死ぬんじゃねぇぞ!」


近藤さんの合図で出動する。


どんどん車に乗り込んでいく隊士達を見届けて
最後に残った俺と


時間が無い。


だから、これだけは言っておこう。






『・・・何?総悟』


良かった。は普通だ。
ちゃんと笑顔がある。
いつもと同じ笑顔。


「絶対俺が護るから」

俺がそう言うと、一瞬驚いた顔を見せる
でも、すぐに笑顔に戻った。


『うん。お願いします』


ぺこりと一礼する。




昨日の俺はどうかしてたんだな。

おかしいのは俺だったみてぇだ。



さてと


行きますかィ。






俺のを護りに。



この笑顔を護りに。














「一番隊、突入!」

俺の合図で一番隊隊士達は建物に入る。

半分を先に行かし、俺とを含む半分は林へ。
そこに逃げ込む敵を捕まえるために。





「お〜・・・ぞろぞろと馬鹿な奴がやってきた」

屋敷から向かってくる男達が、俺たちを見て驚き体を反転する。

だが遅い。後ろにも隊士が居る。




「戦闘開始でィ」

刀を抜く。鋭い刃が鞘から抜かれ、眩い光を齎す。


、俺から離れんなよ」

『はいっ!』



背中につく
には指一本触れさせねーよ



急所を外し、次々になぎ倒していく中、が小さく悲鳴を漏らした。

「どうしたんでィ!?」



側の向こうに、斬られそうな仲間。

は咄嗟に動いた。


!!」


だが俺に向かってくる敵。
離せねぇ・・・。
今動いたら斬られる。

仕方なく敵と向き合い、斬りあう。
それでも急所は外し倒していく。



はどうなった?


横を向いて確認する。
大丈夫。危なくはあるが、怪我ひとつない。


「余所見してる暇あんのかぁ?一番隊隊長さんよぉ」

「!!」


迂闊だった。
気づいた時には既に刀が俺に振り下ろされていた。

咄嗟に体を捻り、なんとか避ける。


「っ・・・」


なんとか浅い切り傷に収まったが、足を捻った。
右足首がずきずきと痛む。


「そんな弱弱しくて隊長格が勤まるのかぁ?」


刀を舐める男。その目はイカれてる。


コイツ・・・此処の長だ。


「・・・それが勤まってんでさァ」

瞬時に刀筋を捻り、そのまま男に突き刺す。
男は悲鳴を漏らして倒れた。

辺りを見渡せば、皆片付いたみてぇだ。
縄を使って男達の体を締め上げている。


・・・が居ねぇ・・・。


「オイ!コイツ縛っとけ!!」

「隊長!?」


咄嗟に林の奥へと進む。
後ろから俺を呼び止める声が聞こえたが、そんなもん無視だ。


・・・。
何処行ったんだ!?









っ!!」


見つけた。敵に囲まれながらも必死に戦う

今にも、斬られそうだ。
後ろから狙おうとしている男に刀を降ろす。

周りの敵の耳に入る断末魔。
男達ははっと俺に振り向く。


「女一人をこんな大勢で・・・よくもまぁ卑怯な事してくれやすねィ」


総悟は笑っている。でも、その笑いは到底楽しんでいるようなものじゃなかった。
怒りの含む、悪魔の笑い。

真選組一番隊隊長の顔を見て、怯む男達。
その瞬間に、俺はの前に入り込む。

『・・・総悟』

「さぁ、誰から死にたい?」


にやりと笑い、舌を出す。


を狙った罪は、死でしか償えないぜィ」

無表情になって敵を見下ろす。
その無表情がどれだけ人を怯えさせるか。

「は、はんっ。大好きな恋人が傷つけられるのが嫌だってワケか、真選組さんよぉ」

顔は引きつりながらも、俺に対抗してくる男。

それがどうした?

「ああ、そうですぜィ」

当たり前じゃねーかよ




地面に力強く踏み、右足を軸に軽く回ってステップを作り

同時に地面を蹴り上げた。

「っ!!」

辺りが赤く染まる。
土には水気が帯びて、徐々に海と化す。


悲鳴をあげる者もいれば、逃げようとする者もいる。

「逃がさねーぜィ」

俺が逃げた奴に向かって刀を振り上げた時だった。
既に死んだと思っていた男がに斬りかかる。

『っ!』

狙っていた男を無視し、の元へ戻る。
今斬っておけば良かったと後から後悔するとも思わず。


、しゃがめ!!」

咄嗟にしゃがんだを左手で抱き、右手で被さる様に向かってくる敵を横斬りにする。


「・・はぁ・・・」

やっと、終わった。
辺りには倒れた男達。は俺の中で怯えていた。


「よしよし」

頭を撫でてやる。少し落ち着いてきたのか、心拍数が戻ってきた。

だが、忘れていた。
さっきの男の事を。


『っ・・・危ない!!』

「なっ!?」


いつの間にか後ろにいた男が、俺に刀を突き刺そうとしていた。

『総悟っ!!』

俺に覆いかぶさる。と同時に俺を突き飛ばした。


「止めろ!逃げろ!!」

目の前でに刀が素早く向かってくる。

「止めろっ!!」

素早く体制を戻して走る。
は、受身をとっていた。

な、何する気だアイツ。


俺の脚は、数時間前に捻挫していた。
動かねぇ・・・。


遅い。これじゃ間に合わない。


!!」

の体が捻る。突き刺さる刀。
だが、突き刺さったのは、地面だった。


・・・と思った。


の腕を見ると切り傷ができていた。


俺はすぐに男を斬ってに近寄る。

!オイ!!」

俺が声を掛けても聞こえていない。

き、気絶してる。



怖かったんだな・・・


「クソッ・・・っ・・・あんまりでィっ・・・
を・・・を護ってやれなかった・・・。




約束したのにっ・・・」







に命があったとしても

が傷ついてる時点で
否、が囲まれてる時点で
怖い思いをさせてる時点で


俺はを護れていなかった。





の傷口をスカーフで止血する。

気絶したを負ぶって林を抜けると、隊士が俺たちを待っていた。


「隊長・・・さんは?」

「・・・気絶してるだけでィ」


に残った傷跡は小さいものだけれど

俺の心に残った傷跡はすごく大きくて塞がらなかった。




***



・・・。


の部屋に連れて行き、布団で眠る愛しい女の手を握る。


「護って・・・やれなかった」



自身の額にの手を添える。
ゴメンな、


「結局、俺はに護ってもらってたのか・・・」


ああヤベェ・・・泣きそうでィ。
マジで弱ぇな俺。



『・・・・・・護ってもらってたのは・・・・・・私だよ』

っ!?」


いつの間にか起きている
うわっ恥ずかしっ



『総悟はいつも護ってくれたじゃない・・・支えてくれたじゃない・・・・・・


あの時だって・・・・・』










『父さんっ!!母さんっ!!』


目の前で倒れる男と女。二人に寄りかかって泣く一人の少女。


その少女がだった。





は、病気の両親を養うためと、
父が対攘夷浪士のメンバーの一員だった事から、父の思いを受け継ごうと真選組に入隊したのだった。


今まで辛い事を経験してきたは俺のいじりに負けなかった。


そんなが、土に伏せて喚き、嘆き、泣きじゃくっていた。



・・・」



の両親は攘夷浪士にやられたのだった。
すぐさまそいつらを斬っての元に戻った時だった。


は何も考えられなくて、ただただ泣き続けた。

なき続ける女に、俺は何度も名前を呼びかけたが、本人は頭に入らない。


っ!」


少し怒鳴るように名前を呼ぶ。
小さな体がビクッと揺れ、
泣き声が途切れて驚いた顔がこっちを向いた。


「いつまで泣いてんでィ。そんなんじゃ真選組には向いてねーな」

『っ!!泣いたっていいじゃないですか!!親族がいなくなった時くらい、、、なんで泣いちゃいけないんですか!!』

起こる。その顔からは一節、二節と涙の後があった。


『隊長の馬鹿!!私の気持ちくらい考えてください!』

「・・・・・・馬鹿はオメェでィ。」

『なっ!?馬鹿はどっちですか!』

「オメェだって言ってんでィっ!!」


俺が怒鳴るとは黙った。そして下を向く。


「お前の気持ちくれぇ、俺だって分からぁ。」


その時は気づいた。
沖田隊長には、両親がいなかった事を。小さい頃に無くしてしまった事を・・・。


私よりも、辛いかったはずなのに・・・。


『ごっ・・・ゴメンなさい・・・』

「誰も誰が辛いとかそーゆー話してんじゃねぇやぃ。」



俺はそう言うとに近づき、頭を軽くポンポンと叩いてやる。



「強くなれ。切り替えが大事だ。
忘れろとは言わねぇ。でも、いつまでもくよくよしてんな。
俺に頼れ。痛みを俺に分けてみろィ。
そのためにも、俺は居るんだ。」


『っ・・・た、隊長ぉ・・・』


再び泣きそうなを抱きしめる。


、泣け。そんで、明日からは一切泣くな。
今後辛くなったら俺に頼っていいんでィ。」


『・・・ふ・・・ふぇっ・・・』


は俺の中で再び泣いた。

小さいガキの様に。





さっきよりも泣いた気がする。

辛いはずなのに、何故だか凄く安心した。


泣けば泣くほど、胸が軽くなっていく気がした。







『私はその時から・・・否、その前からずっと総悟に護ってもらってた。
総悟は私にとって掛け替えの無い、大切な存在。』


「・・・・・・・・・。」


『だから自分を責めないで。護れなかった事はないの。
私は総悟が居なかったら、今頃此処に居なかったんだから。
総悟が居なかったら、私は両親の後を追っていたと思うの。
だから、だから総悟、、笑って?』


「・・・・・・・・・・」


『総悟、、好きだよ』

「っ!?」



初めて聞いたの気持ち。

俺はやっぱり、に支えられてきたんだと思う。

が居なかったら、俺も此処には居ないから。



、愛してる」


そっと口づける。

浅い口付けから、だんだん深く。



いつもよりも、長く長く




『んっ・・・』


が苦しそうな声を出したから、唇を離す。



「・・・ハァっ・・・どうでィ?俺の味は?」

『・・ハァっ・・・・ハァッ・・・っ〜・・・///』


息を切らしながら顔を赤らめる









『・・・・・・とっても甘酸っぱい、恋の味・・・かな///』







私と総悟だけの







甘酸っぱい







恋の味




END


〜後書き〜
未来、お待たせしましたっ!!本当に遅れてすんまっせん!
こ、こんなんで良ければもらってやってくださいな。
では、これからもよろしくお願いします!