冗談じゃない
『嘘だっ!!嘘だ嘘だ!!』
「っ!落ち着きなせィ!!」
腕の中で暴れるを必死に押さえつける。
は泣きながら喚き、俺の腕を振り解こうとする。
『そ・・・んなぁ・・・嫌だ・・・嫌だァ・・・悠ぅ!!!』
目の前で血を流しながら倒れる恋人を目にしては嘆き続ける。
『悠・・・死なないで・・・死なないでよォ!!』
「もう・・・・・・・・・死んでまさァ。」
見ていられなかった。無残な姿の悠と、その悠を見て喚くを。
悠は俺の一番隊の優秀な隊士だった。だが、真選組にスパイが入って情報が漏れたらしく俺は狙われた。
悠は危険に逸早く気付き、単独行動をしていた。悠は・・・・・・俺を護って死んだ。
『うぅ・・・・・・嫌・・・だぁ・・・。』
大人しくなる。腕を離すとはしゃがみ込み、静かに泣いた。
その小さくなった姿を後ろから抱きしめてやる事はできなかった。
それは、俺のせいで悠が死んでしまったから。
そして、俺がを好きだったから。
を愛してしまったからこそ、今胸に残る残虐感がズキズキと痛む。
ああ、何でだよ。
苦しい。全て俺が悪いんだ。
俺を大切にしてくれた悠を、俺は居なくなって欲しいと思ってしまってた。
が欲しいと思った。
でも、それがこの結果だ。
俺のせいで・・・俺のせいで・・・。
悠・・・ゴメンな。
・・・ゴメンな。
だからこそ
俺はに近づけない。
俺はに触れられない。
近付いてしまったら
触れてしまったら
俺はまたを苦しめるだろう。
全ては俺のせい。
なんであんなこと思ったんだ。
自分の身勝手さが、二人を苦しめた。
スパイが居る事に逸早く気付けなかった俺が
悠にいなくなって欲しいと思った俺が
全ての原因なんだ。
俺は、一番隊隊長に向いていないのかもしれねぇ。
未だ目の前で泣き崩れるの後ろ姿をじっと見つめる。
「・・・。」
名前を呼ぶこともままならなくなる。
今にも消えるような声で呟いた名前。
本人の耳には入っていないだろう俺の言葉。
「・・・すまねぇ・・・・・・。」
俺は倒れている悠の腰から刀を鞘から抜いた。
その刀をに無言で渡す。
『・・・・・・お・・・きた・・・さん?』
涙の後が残る顔で俺に向けて首をかしげる。
俺は目を逸らした。
苦しかった。の顔を見るのも。
「斬れ。」
『・・・え?』
突然の事に驚く。
「苦しかったら俺を斬れ。俺は抵抗しねぇ。」
の瞳孔が開く。は分からないだろう。
何故恋人の上司を斬らなければならないのか。
何故女中という身で、真選組の切り込み隊長を斬らなければならないのか。
『・・・なんで・・・。』
「・・・お前が苦しむ原因が俺だからでィ。」
詳しくは語らない。語ってしまったら、俺が苦しくて何も言えなくなる。
きっと逃げてしまう。斬られる事に怯えてしまう。
口に出しただけで、俺は気を失ってしまうだろう。
カタカタと震える小さな手には、悠の刀を握られていた。
さあ、斬れ。恋人の仇だ。
『・・・・・・。』
は無言で鞘から刀を抜いた。
俺は此処までの人生なんだ。
好きな奴に斬られるのだから気分は悪くない。
・・・いや違う。
俺はまた逃げてるだけなのかもしれない。
早く楽になりたい。
俺が逃げてるのかもしれない。
俺を斬った後のはどうする?
何故俺を斬ったのか分からないまま屯所に戻れば
また何故だか分からない土方さんや近藤さんに反逆者だと見なされ殺されるかもしれない。
「・・・・・ちょっとま・・・っ!!」
俺が言い終える前に振りかざされる刀。
逃げないと言ったのは俺自身。だから俺は目も閉じず、そのまま止まった。
、できれば幸せになってくだせぇ。
ぐっと力む。だが、の刀はとんでこなかった。
目を開けていたから分かる。
によって向けられた刀は、俺の横の木を斬っていた。
もちろんには木を切り倒す力はない。刀は木に刺さったままだった。
『わたしがっ・・・』
俯きながら言う。俺は耳を凝らす。
『わたしが・・・沖田さんを斬れるわけないじゃないですか・・・。』
顔を上げる。大きな瞳からまたポロポロと涙が零れた。
『わたしっ・・・・・・沖田さんの事が好きなんです。』
目が見開いた。俺は今とんでもない顔をしてんだろうなぁ。
が・・・俺を好き?
ありえねぇ・・・。第一は悠の・・・。
『ずっと・・・前から・・・女中として働き始めてからです。』
「それ・・・悠と付き合い始める前じゃねぇか・・・。」
どうなってんだ。俺の中で混乱する。
何をどう言ったらいいのか分からない。
口は自然と閉じていく。俺から言わなくていいものが出そうだった。
『わたしは・・・悠と付き合ってません。』
「・・・は?」
どういう事だ、オイ。意味が分かんねぇ。
は?俺、どうしたらいいんでィ?
『協力してもらってたんですよ。悠に。』
相談してもらっていたんです。とは言った。
続けては話し出す。
どうやら俺は勘違いをしていたらしい。
確かに本人から直接付き合っているなどと聞いた事が無い。
ただ噂で聞いて、そんな感じがしたからそうなんだと思っていた。
『だからわたしは・・・・・・
悠が居なくなって凄く悲しいけど、沖田さんに死なれたらもっと悲しいです。』
すとんと木にもたれる。顔を手で隠して泣き続ける。
俺はとんでもない間違いをしていたんだな。
「冗談じゃねぇ。」
俺は呟く。の気持ちを聞いたって素直に喜べない俺が居た。
今の俺は、自身のせいで悠を失った俺は、きっと何があったって動じないだろう。
「悠のバカ野郎。」
だからかコノヤロー。
昨日言った事。お前ぇそーゆー事だったのか。
「もし俺が死んだら、はお願いしますよ。」
昨日の夜。悠は俺の部屋に来た。
来て早々それだけ言うと、部屋を出て行ったのだ。
何がなんだか分からなかった。
ああ、そーゆー事なのか。
悠のバカヤロー。
俺はを抱き寄せた。
『っ!?』
悠、お前のせいだかんな。俺がに惚れたのも。
俺がお前の分まで背負っていかなきゃならねーのも。
全部お前のせいだ。
「、俺、お前の事が好きなんでィ。」
涙が出てきた。何もかも悠のせいだ。
バカ野郎バカ野郎バカ野郎。
『・・・な・・・んで。』
は信じられないという顔をしていた。
多分、は俺の気持ちなんて一欠けらも思ってなかったんだろうな。
『冗談じゃねぇってさっき言ったじゃないですか。』
俺の腕の中で、は顔を赤くしながら言った。
「今頃天国で笑ってる悠に言ったんでィ。」
悠。俺はお前の分までを大切にするぁ。
お前がを好きだったこと。俺はよく分かってんだからなぁ。
お前が一番に望む事。それがの幸せだろィ。
悠には悪いが、お前の望みは俺が叶えてやりまさァ。
よーく見とけよ。
そして静かにに自身の唇を落とす。
『んっ・・・。』
は一瞬苦しそうな声を出した。俺は唇をゆっくり離す。
同時に、顔を上げたを見た。
ほら見ろィ、悠。
はこんなにもいい顔してまさァ。
だけじゃねえ、俺も。
そして多分。今お前もいい顔してんだろィ。
何年か後俺がお前の所に行ったら、感想聞かせてくれよな。
悠。安らかに眠れ。
END
〜後書き〜
すんませんすんませんすんません。何だこの駄文はって話ですよね。
最初は悲恋かなとか思っておきながら途中なんだよこの急展開。
うっわ〜信じらんねぇ〜
ゴメンなさいね、ホント。
此処まで読んでくださって本当にありがとうございました!!
これからもよろしくお願いしますね!!