放課後にまだ隣の教室に残っていたからチャンスと思ったんだ。
あまり触れ合いがなかったのに呼び出して
その後の事を考えてなかった。
夕日のせいなのか俺のせいなのか、少し頬が赤い。
きゅっと口をつむって困った様な顔で彼女は頭を下げた。



「ごめんなさい」



今日俺は、学校イチかわいい女の子にふられた。




+++



「明日から顔合わしづれー……」


あの後の自分の行動を覚えていない。
なんと言って別れたんだろう。
とにかく俺は気づいたら自分の教室に戻って机に突っ伏していた。

両手で頭を乱暴にかきながら、悲しみに明け暮れる。



もうヤダ……何で俺ッ……。
結果はわかりきってるじゃんかよー……



目頭が熱くなって、鼻もぐずってきた。
俺、泣きそうだ……。
でも声は出したくない。
小さく肩を揺らしながら、机に染みを作っていった。




ふと、頭に優しい感触が伝わってきた。


暖かい‥‥。
ふと顔をあげてみる。


夕日の逆光を浴びた何かを
涙で霞んだ瞳で見るのはしんどかったが
とりあえずそれが何だったのかはわかった。


誰だっけコイツ……


顔はよく見えないが、誰かが俺の頭を撫でていた。
当の本人は顔を上げた俺を見てもなお、変わらず撫で続けている。

お互いに何も言わないまま、数分が経った。
よくよく考えてみると頭撫でられてて
しかも無言で見つめ合ってるって……おかしな光景だよな。


だんだん俺の視界がクリアになっていって
徐々に目の前の人物が明らかになった。



「真田……?」



真田颯斗―さなだはやと―、隣のクラスのやつだった。
あまり思い出したくないが、先ほどフラれた女の子と同じクラス。
そういえば、その子が昔好きだったという噂もあった。



「やっと反応したな」



ムカつくくらい整った顔で
ムカつくくらい良い声で
ムカつくくらい性格が良いと聞いている。

だが、実際話すのはこれが初めてだ。
真田は寡黙とは言い難いが、
普段からそんなに騒がしく話すやつでもないため
あまり印象に残っていなかった。



「見えなかったんだよ」
「泣いてて?」
「……うっせ」



俺、高嶺和希―たかみねかずき―は家族以外に初めて涙を見られた。
最悪だ……ちょっとカッコいい男を演じてきたのが水の泡だ。



「高嶺の泣いてるとこ初めて見た」
「俺だって見られたの初めてだよッ……つかもう離せよッ!!」



少し乱暴に腕を掴んで、俺の頭から離させた。
だがまだ真田は俺を見たままだ。
じっと見られてて、だんだん恥ずかしくなってくる。



「だーっもう!!じっと見んなよ!!」
「いやなんか、珍しいもの見たから……」
「はぁッ!?」



なんだコイツ。
良いやつ!?こんな人をおちょくったようなやつが!?
ホントに良いやつだったら、理由聞かずに俺を慰めたりとかしろよなッ


って……

もしかして頭撫でてたのって……慰めてたのか!?


まさかっ……
でもだったとしたらフラれたの見られてた!?



「……ぷっ……お前なんかかわいいな」
「何だよそれッ!!こっちはフラれて悲しんでッ……あ」



しまった。
自分から暴露してどーすんだよッ
もし真田が知らなかったら
わざわざ自分から言ってる事になるんだぞ!?



「真田フラれたのか」
「ああーッ違っ……違うわけじゃねーけど、とにかく違ぇんだよ!!」



自分で何言ってんのかわからなくなってきた。
動揺しすぎだろ俺。





―クスッ――
その時真田が笑った
取り乱してる俺を見て。






「なら……



俺が代わりに付き合ってあげようか」






「…は………?」







今、コイツ何て言った!?


俺が代わりに……何だって!?




「だから、俺が代わりに……」
「なんでそうなんだよッ!!俺男だっつの!!」
「俺も男だよ」



だーからっ!!
なんでそうなんだよッ
意味わかんねーんだよ

意味不の原理越えてんだろそれ!!



「止めろよ、冗談……」
「冗談じゃねーよ」



途端に真田の顔が真剣になる。
それを見て、俺の体が強張った。
真田の目から離せられねぇ……




「高嶺……」


名前を呼ばれて、ビクッと俺の体が揺れた。
だからッお前良い声すぎんだってば!!
などと心の中では軽く言えるが
真田に圧倒されて口すらも動かない……



「さな……んっ」



いきなり口を塞がれた。

今何が起きてんだ!?
な、なあ!!俺今どうなってんだよ!?


ただ茫然とわかっているのは、
すごい近くに真田の顔があって
頭の後ろは真田の大きな手で押さえられてて
俺の腰は真田の体にピッタリと引き寄せられていると言うことだ。


「んんっ……」


だんだん深くなるにつれて俺は苦しくなった。
耐えられなくて、とにかく頭では理解できなくて
思いっきり真田を突き飛ばした。


「っ……なななッ!!おまッ……何しッ…」


解放された唇はやけに熱くて
足腰には力が入らず、腕が腰から離れた瞬間ガックリと床についてしまった。


「想像以上にイケるかも……」


唇をぺろっと舐めて、真田は俺を見つめている。
俺は真っ赤になりながら、今何が起きていたのか考えていた。



き……ききキスされた…!?
真田に……!?男にッ!!?







「高嶺、俺と付き合ってよ」



なん……でそうなんだよッ!?
俺ら男同士じゃんッ
ありえねーだろ普通ッ!!



「真田……お前ホモなの…?」
「……違う」



俺の言葉を否定して、ゆっくりと近づいてきた。
咄嗟に逃げようと体が動く。
たが、やはりまだ足に力が入らない。


そうこうしてるうちに真田はもう目の前にいて
そのまましゃがんで目線をあわせてきた。




「高嶺だから付き合ってみたいんだよ」





―ドクンッ――
胸の鼓動が大きく脈打った。



お、俺何ドキドキしてんだよッ……



つか俺、さっき女の子にフラれたばっかなんだぞ!?
それなのに俺ッ……




「高嶺……」






「しっ……知るかッ」
「高嶺!?」



残った力を振り絞って真田を突き飛ばし
机から落ちてしまった鞄をがしっと掴んで教室を飛び出した。


後から俺を呼ぶ真田の声が聞こえたけど
俺は聞こえないフリをした。




知るか


知るか知るかッ




何がどーなってんのかまだわかんねーッ






俺はただひたすらに逃げていた。
家に着くまで止まることなく

真っ赤な顔は夕日のせいだ
もしかしたら走ったからかもしれない

と自分を誤魔化して……――