嘘って一回つくとややこしくなる



潜入操作を終え、副長である土方さんと別れた後向かったのは少し賑かな街。

大した用事ではなく、
ただただ俺は買いたい物があっただけだ。

普通に、本当に普通に買い物を済ませ屯所への帰路を歩いていた。



・・・はずだった。









『……迷った…』










第八訓 嘘って一回つくとややこしくなる





いつの間に変な道に入ったのか?

俺は昔からよく迷う。
好奇心旺盛ではあるが、今日は知らない道を通った記憶もない。


別に暗い道でもないし
普通に街を歩いている人に「真選組って何処ですか?」と聞けばいいのだ。


だけど聞くのも気が引ける。

さて、どうしたものか。




女装のままの格好を見てため息をつく。

男の格好で迷うんだったら高いところに上ってみたりとかいろいろと無茶できるのに今は動きづらい。

先程の戦いでは着物を無理矢理はだけさせたがこんな街中では無理だ。


取り合えず進もうと知らぬ道をただ歩き続ける。

そんな時、知らない男が近づいてきた。


今日はよく男が近づいてくるな・・・。
俺って意外とモテんのかも?


と冗談のつもりで考えていた。



「ちょっとそこのお嬢さん」

『・・・なんですか?』


取り合えず適当にあしらっておこうと振り向く。

シカトは流石にできない。
かといって知らない奴と話し込むつもりもない。


取り合えず、近づくなオーラをかませ、俺!


たりぃな、オイ、的な表情をして男を見ると
そいつは想像以上に笑顔で、怪しいくらい優しい顔をしていた。


「君、もしかして迷子?」



・・・え、分かったの!?
え、それってかなり凄くない?

別にキョロキョロしてたつもりは・・・・・・ある。うん。



『えと、迷子じゃないです。
ちょっと家がわからないだけです』


かなり力を入れて口にする俺。
あ、威張る事でもねーか。


「それを迷子っていうんだよ」


あ・・・。
そうでした。


取り合えず今俺が言った言葉を思い出してみた。

うん、確かにそうだ。


そう思っていると、軽く俺の肩に手を置きながら男が言う。



「俺らが連れてってやるよ」



よく見れば男には数名の仲間がいた。

なにやら少し怪しいが、この際一応ついていってみよう。


他の人に話を聞くとか面倒な事は
この後"何か"が起こった後でいい。


その"何か"が起きる確立なんてそうないだろうし。


俺強いし?



『お願いしま〜す』



そんなこんなでついていったものの・・・


手を引かれ半ば強引に誘導され連れて行かれた場所は暗い路地裏。



俺の中では可能性の引くかったその"何か"が起こってしまったわけだ。




ヤラレタ!!ダマサレタ!!



なんとなくはこうなるって分かってたけど。




『ちょっ!!離せよ!!』



最初から腕を捕まれていた為身動きが取れない。

男の握力は想像以上に強かった。



「今更遅いっつーの!!」



―ダンッ―と大きな音を立てて壁に叩き付けられ背中に鋭い衝撃が走る。

小さな悲鳴を漏らした俺。

そのまま両腕をひとつに束ねられ、両腕の動きは完全に塞がれた。


やはり解くことはままならない。




あ〜あ。やっちまった。




「お前見た目と違って筋肉あんなぁ・・・」



腰のあたりをなでる男。
その手つきは物凄く気持ち悪い。


今までそんな経験などない俺は咄嗟に自身すら聞いた事のない声を出した。


『ひゃぁ!!』


口を押さえたくなって手が動いた。

だがやっぱり動きは封じられているのでぴくぴくと動くだけ。


「へぇ〜感じるんだぁ」


口角を曲げる男の表情は醜く吐き気がした。





ムカつく。

ムカつくムカつく。



考えていると、物凄くイライラ度が増してきた。
数秒で不快感が頂点まで達すると、俺は腕に体重をかけて思いっきり足に勢いをつけて振り上げた。



『おらぁ!!!』

「うがぁっ!」




俺の目の前にいた男の股間を思いっきり蹴ってやった。

弁慶の泣き所を蹴るよりずっと効くだろう。



「こんの女ァ!!!」


暫く股を押さえしゃがんでいたが、キレた男は懐に素早く手を入れた。


―カチャッ―という音と共に向けられた銃口。


撃たれる!!


反射的に目を瞑り、自分の人生の終わりを待った。

避ける事などできない。
だが撃たれたくはない。
でも逃げれないのだ。


銃を使うとは・・・本当卑怯だな、コイツ。
めっちゃ俺フリじゃん。




―ドゥンッ―


大きな銃声が辺りに響き渡って、同時に人の様な物が倒れる音がした。

体中に鋭い痛みが・・・・・・アレ?
痛く・・・ない?



ゆっくり目を開けてみる。


少しぼやけた視界に入ったのは、
目の前で俺に銃口を突きつけていた男だった。


銃口からは確かに白い煙が出ている。

そして顔の近くが生暖かい。


体が一瞬ビクっとして顔を左に向けてみた。



『げぇええ・・・』


俺の顔からわずか2cmというところに弾丸が食い込んでいる。


し、死ぬっ!!死ぬコレぇぇえ!!


なんちゅーギリギリな世界なんだ。
つか、え?何?
何で男倒れてるんだ?


ろくにコントロールもできねぇのに撃った反動で倒れたとかそんなもんか?


一人わけが分からずキョロキョロする。


だが、また何かの音がした。







そしてある物を目に捕らえた。


誰か・・・いる。

俺を助けようとしてる誰かが。



鈍い音を立ててまた一人また一人と男たちが倒れていく。

動きが素早く、そして明るい街路からの逆光で顔がよく見えない。


とりあえず、動きからして男だろうという事は分かる。


た、助かった。


全員まだ倒しきっていないというのに俺は既に安心感を抱いていた。




もちろん、予想通りすべての男が倒された。



俺の腕を掴んでいた男は
スーパーヒーローが最後に倒した男だった。


逃げなかったのは、きっとおびえていたからだ。
そのおかげで俺の手首にかかる負担は余計大きかったが。



やっと開放された俺はやっとその倒した者が見れた。



『えっ・・・!?』


その人物を見て俺は驚いた。
俺は口が少し開いたまま、ポカーンとしているだろう。




そこにいたのは、


『沖田隊長!!』





紛れも無く俺の上司だった。





沖「こんなところで何してるんでィ」


仕事を終えた時の様に肩を回したり手首を回したりして筋肉を解す。


普通運動する前にやるんじゃないんですかね?
あ、コレ整理体操ですか。


って・・・違う!!

『それはこっちのセリフですよ!何でこんなところに・・・
俺以外の隊士達は皆屯所に戻ったんじゃないんですか!?』


助けてもらったとはいえ
惨めな姿を見られて、礼を言うのは気が引ける。


一番見られて欲しくなかった奴だった。


だが俺の問いに答えは帰ってこなかった。


沖「お前だったんだな」


『・・・は?』


な、何で・・・?
何でバレて・・・?


女装してんだから男に狙われてもおかしくないだろ?

だからこの件でバレる事はないはず・・・。



沖「男のわりにはいい叫びだったじゃねぇですかィ。ちゃん」


口を強く瞑る。
物凄く馬鹿にされてる気がするわ。

だけど、助けてもらったんだし悪いようにはできない。


だけど、このままじゃ真選組にはいられないよな・・・。


『別にアレは・・・』


誤魔化そう。そう思って口を開いた。


沖「なっ・・・!!」


突然隊長は目を大きく開けて俺の反対側を見つめた。

『え?』

釣られて俺も振り向く。

が、それが間違いだった。






途端胸元で感触が・・・。

視線を戻すと


其処には胸を触る隊長がいて・・・。



せ、せくはらぁぁああああ!!
セクシュアルハラスメントォォオオオ!!?



沖「女の割には小さいがちゃんとあるじゃねェですかィ」


『・・・・・・』



買Kーンッ!?


今ものっそい傷ついた!!

ば、バレた!!

でもバレたのも悲しいけど何その批判!!
なんか酷くね!?

どうせ・・・どうせ俺は・・・。




『あ・・・あ、あ・・・』


心の中でしくしくと泣く俺。

別に彼氏でもねぇ男に触られて・・・俺もうお嫁に行けねぇよ母ちゃん、父ちゃん。


『責任持って隊長が俺貰ってください』


沖「意味分かんねぇんだけど。つか、どっからそうなった?」


切り替えた俺はドーンと隊長の目の前に立った。

その反応が予想外だったのか、一歩退く隊長。


俺は続けてこう言った。


『バレたんじゃ仕方ないですね。でも面白いんで、このまま誰にも言わないでください』


お願いしますと頭を下げると、疑問そうに隊長は俺に問う。


沖「・・・面白い?」

『別に俺は女としていたっていいんですよ。
確かに山崎には"男"って言いましたけど、他の人には"俺は男"だなんて一度も言ってないです。
なんか、見た感じみんな男だと思ってるみたいなんで、このままでいいかな〜って』


面白いってのはちょっと言葉が不味かったかな?
と思い言い方を変える。


分かってくれるといいんだが・・・。



沖「ま、いいや。俺は誰にも言わねぇ」

『ありがとうございます!!』


思ったよりもすんなりと分かってくれた。

やっぱり頭はいいらしい。



沖「だけどひとつだけ言っておく。
沖田隊長っていうのナシでィ。分かったな?」


『・・・・・・へ?』


予想外の展開に頭がついていかない俺。

えと、どういう事でしょうかね?



沖「総悟」

『え〜っと・・・?』

沖「総悟って呼べ。それと敬語は禁止な」



ただでは済まないとは思ったけどそんな事だったなんて・・・。


そんなのこっちからお願いしたいくらいだよ、本当!!


『分かった。そのかわり絶対に内緒にしてくれよ』


沖「わかってらァ」



もともと年は離れてない。
一応年上ではあるが、少しくらい命令口調でもいいだろう。


其処まで怖い相手でもねぇだろうし。


そこでふと思った。
アレ?こいついつから見てたんだ?


『なあ、総悟いつから見てた?』

沖「”ちょっとそこのお嬢さん”からでさぁね」



なあ、それってさ・・・



『最初からじゃないかァ!!!』


もっと早く助けろ馬鹿!
どんだけ俺が気持ち悪い思いをしたと・・・




沖「否、俺はの実力を拝見しようとしてたんですがねィ
いくらなんでも男につかまれちゃダメだよなぁ」



俺を置いて先に街路へ戻ってゆく沖田総悟。

結局置いていくかよ・・・。



つか最初から見てんならダメだと思ったときに助けろよ。


やっぱ少しは俺が嫌がってんの楽しんでんじゃね、コイツ







これからもいろいろと大変だぁ。とこれからの生活を想像してため息をつく。


そして先を行く上司の後を追いかけた。






山「あ!おかえりなさい隊長!!!」


屯所に戻るとザキが迎えてくれた。
玄関で待っていてくれたようだ。


『ただいま!』
沖「おう」


総悟はザキの目の前を通って先に行ってしまった。

残った俺とザキは一緒に廊下を歩く。



山「沖田隊長どこに行ってたかと思ったら、を迎えにいってたんスね」


その言葉に俺は嬉しくなった。


へ〜俺なんかに結構優しいとこもあるんだ・・・

意外…







***







翌日の朝を迎えた。

布団を出てからすぐに身支度を済ませ朝食の場へと向かう。



昨日はとても疲れていたからぐっすりと眠れた。

だが、内心ちょっとどきどきしている。



『おはよう!!』

「「おはよう」」



みんなの反応で安心を取り戻す。


よかった…バレてない。


取り合えず空いている席へ向かうと、其処には土方さんと総悟が既にいた。



『それにしても・・・食欲うせる・・・マヨネーズ…』



異常なまでものマヨネーズを感じて視覚と嗅覚がおかしくなってきた。

一瞬はきそうになる。


土「ああ?何だと?お前いい度胸じゃねぇか・・・食ってみろ。ぜってぇうまい!」

『却下』


つか近づけないでくださいお願いします。
無理無理無理無理無理。


沖「土方さん。豚の餌なんかあげちゃダメでさァ」


土「何が豚の餌だ!!上等だ!刀を抜け!!」




はぁ・・・毎日毎日。
よくも飽きずにこのコントができるなとある意味関心する。


だけど朝食はゆっくり取らせてください。




ま、きっかけはいつも俺だけど。






だが、自分は朝食の時間を優雅に過ごそうとご飯を手にした時だった。


―ブチュッ―



の顔にマヨネーズが噴射された。

顔にぬるぬるしたものが存在し鼻に匂いが直に来る。


沖田が踏んだらしい。




沖「あ…すまねェ…」



これは悪いと思ったのか急いで謝った総悟。


だがそれは既に遅し。



『死ねェ総悟ォ土方ァ!!!
なんちゅーもんかけてくれんだァコノヤロー!!!
まだ味噌汁ならともかくマヨネーズかけんじゃねぇ!!』



壁にかけてあった沖田専用のバズーカを取り出し
ろくに使い方もしらないのに連続で何度もぶっ放す。



―ドカンッ―と大きな音と立てて毎回何かが吹っ飛んだ。




土「オイ!何で俺も入ってるんだよ!踏んだのは沖田だぞ!!」


『テメェのマヨネーズだろがァァアアアアア!!!』





暫くして朝は終わった。



二人は黒こげになって・・・。



俺の怒りはあまりにも凄かった。