男の脛毛って暑苦しい



第七訓 男の脛毛って暑苦しい




真昼間に緊急会議が入った。
隊長格だけでなく、全ての隊士達が集められる。


俺も沖田隊長に呼ばれ、向かった。


其処には既に局長であるゴリラこと、近藤さんが座っており、何やら深刻そうだ。



刻が深くなって余計ゴリラに見えるとか・・・今は考えちゃダメだよな。


笑えるが堪えろ、俺!


全員が座ると、近藤さんはゆっくりと大きな声で話し出した。




近「今夜丸子氏神社へ潜入操作を行う。
其処で祭りがあり、薬の密売が行われるという情報が入った」



そういう話に辺りの空気が変わらないのが凄いと思った。


流石真選組。
俺は近藤さんの表情で既にヤバイのに皆は薬の密売でも動じないのか・・・。

見習わないと。


そう思った束の間。




近「だが我々は顔を知られすぎている。
そこで・・・各自着物を配るのでみんなには女装をしてもらう」



このセリフで空気が変わった。



「「じょ・・・女装!!?」」



驚いたのは俺もだが、先程まで動じなかったくせにいきなり騒ぎ出した。


というか、俺が漫画で知ってたのはこういう空気なんだけども。



土「俺だって嫌だよ。だが、仕方ねぇだろ」



あの土方さんにまで了承を得るなんて・・・。


近藤さん・・・アンタスゲェよ。


これじゃ俺達も女装しなきゃなんないじゃん。



最悪・・・って・・・俺、女か。




沖「ほらよ、お前ぇの分だ」


沖田隊長が俺に差し出す包み。
この中に着物が入ってるらしい。


あ、沖田隊長の着物姿すごく見たい!!
うわ〜・・・マジ楽しみだ〜





あ、俺いっかい髪洗わないといけないんだよな。面倒くさいな・・・。


とりあえず、個室のシャワー室に入って髪を洗う。
ワックスはアリミノを使っていたためかなり頑固だ。

それでも丁寧に、髪が痛まないように優しく洗い流した。


その後は自室に戻り、渡された着物を眺める。



それにしても女モノの着物か・・・久しぶりに着るな。


あ、サラシとってもいいんじゃん?女装だもんよ

でも女が女装って・・・。



『・・・結構綺麗な着物』


よく眺めてみると、きれいな蒼い布に蝶が描かれていた。

俺には似合わない・・・とふと思う。
だがこれを着なければならないのでとりあえず着物に袖を通した。



そして苦手な化粧を薄くしてみる。

鏡でその顔を見たが・・・やっぱり似合わない・・・。



『はあ・・・ま、いっか』



鏡を置いてふと皆の事が気になる。

絶対土方さんと沖田隊長は似合うはずだ。
マジで見たい見たい見たい。


ちょっと皆の見に行こうかな?



あ、でも今尿意がやってきてる!!

・・・・・・う〜ん・・・やっぱ先に厠行こう。

やっぱり便意には適わないよな。



お前女?とかそういう発言は聞かない聞こえない〜。









「ふぅ…やっとできたぜィ・・・。
やっぱ女モンの着物はキツイな」



着物に着替え終わり、胸元を少し緩めながら廊下を歩く。

男にとっちゃこの締め付けがかなりきつい。


なんでこんなにキッチリしてんでィ。




すると、廊下の向こうの方から沢山の足音が聞こえてきた。


「「沖田隊長ぉおお!!」」


同時に自身の名を呼びながらやってくる隊士達。


沖「何でィ?そんな大勢で・・・」



怪訝そうな目で隊士達を見る。

だが逆に隊士達の表情はぱーっと明るくなった。


「副長や隊長はきっと女装したら似合うんじゃないかと来てみたんです!」

「「そしたらめっちゃかわいいじゃないですか!!」」


はぁはぁと息の上がる女装をしたむさい男達。


沖「・・・アンタら変態ですかィ」


少し後ずさりしつつ暴言を吐く俺。

なんか身の危険を感じる。



「今の沖田隊長になら何言われても・・・」

ある一人の一番隊隊士が言うと、続けて声を揃えて隊士達が言った。


「快感♪」


両手を組んでぼ〜っとする男達。



「黙れ」


バズーカを何処からか取り出しきもい奴らに向かって発射する。


大きな音がしたのに、奴らは焦げつつ其処に立っていた。



ある意味ゾンビだ、こいつら。




「何の騒ぎだ!?」



爆音を聞きつけて、土方さんがやって来た。

その姿もやはり、女装が似合っていて、


「「副長めっちゃ美人です!!!」」


土「そんなんで褒められてもうれしくねェ!!きもいんだよ!」




丁度その時、隊長の部屋の前で集まる隊士達のところへ俺は来た。

普通に厠から戻ってきたら、
行く前はいなかったのに隊士達は集まってるわ、辺りは焦げ臭いわ、ぎゃーぎゃーうるさいわ。


『皆どうした?そんな集まって・・・』



俺が声をかけた途端、皆が黙った。
一斉に視線が此方へ向く。



沖「・・・お前・・・誰でィ?」


「意外と好みかもしれねー、俺!」
「オイオイ、こんな娘がどうして此処にいるんだ?」



よく分からず首を傾げる俺。

え、誰?好み?
は?意味分からないんだけど・・・


もしかして俺だってわかってない?


『え?俺、ですけど』


「「!?」」



耳が―キーン―と来た。
決して耳元で叫ばれたわけでもないのだが、
沢山の隊士が一斉に叫んだので、かなり耳に響いた。




「確かには女っぽいとこもあるけど此処まで・・・」


『え、コレ褒められてんの?・・・とりあえずありがとう』



顔が引きつりながらも、とりあえず笑ってみる。


てか、こんなむさい男達に囲まれるより、隊長と土方さんの女装の姿をもっと見たいんですけど!!


だって一瞬だけだったけどかなり似合ってたよ、さっき!!

めっちゃ可愛かったよ。二人とも!!



って・・・アレ?どうした?
みんな固まって・・・。


俺はやっと隊士達が固まっている事に気づいた。
その視線はずっと俺へ向けられたままだった。


『そんなに見られると恥ずかしいんだけど・・・』


先程の沖田同様、は後ずさりをした。

とりあえず、これは危険だと・・・本能的に察した。


だけどそれは少し間に合わなくて・・・



「ちょ、一瞬だけ抱きしめさせろ!!」


言うと同時に俺に向かって飛んできた一人の隊士。

体中にゾゾゾーっと来た。
寒気がして反射的に目を閉じて適当に腕を振り回す。


『げぇえ!!来るな!!』


―ドガッ―

それが上手くヒットしたらしく、
男はによって壁に叩きつけられた。








吹っ飛んだ隊士を見送ると、隊長は俺の元へやってきた。

うん、やっぱり可愛い。


沖「ダメですぜィ。今は女装中なんだからよォ、もっと可愛くしねぇと」

『た、例えば?』



今の隊長なら可愛すぎるから小細工必要ねーと思います。
ええ、俺はそう思います。



沖「こーゆー時は、キャァ!!とか、いやァこないでェ!!っておびえるのが普通でさァ」



いや、分かってますがね。
でも、コレ素だからさ。仕方ないじゃん。


俺は小さい頃からそういう風に育ったんだよ。
そんな悲鳴今まで出した事ねぇって・・・。



沖「ほら、やってみな」


―ガバッ―と抱きついてきた沖田。

え?やんの?やんなきゃなんねーの!?


『きゃ、きゃ〜ぁ!!?』


うん、我ながら迫真の演技だ。

でも・・・
やべぇ・・・マジ恥ずかしい。



沖「そうでさァ」


『・・・あの、早く離れてくれませんかね?』



いくらなんでもこんな密着してたら顔赤くなるっつーの!!

ヤバイって。沖田なんかに抱きつかれたら本当・・・。

もう心臓バクバクだって!!



沖「なんででさァ、いいじゃねェですかィ」



顔近いっ!!めっちゃ近いよ!!

君ただでさえ美形なんだから!!

そんな顔近かったら誰でもヤバイって!!



ダメ…多分

俺男だったら今の沖田隊長に惚れちまう・・・。

めっちゃかわいいんだもん!!

女でよかった・・・俺。


禁断の愛に走るところ・・・・・・ん?



アレ?俺が男の方が禁断か?

そうだ!沖田隊長が女で俺が男ならいいんだ!!

・・・ん?



・・・頭混乱してきた。
これも沖田隊長のせいだ。



沖「何考えてんですかィ」

『と、とりあえず離れてくださいね!!』


ちょっと声が裏返ってしまった。
これ恥ずかしいんだけど。

気づいてないかな、コレ!?


沖「はいよっ」


目だけ左上を見て少しだけ首を傾げつつ、微妙にいじけた姿が可愛い。


そして一緒に視界に映る男達が気になってきた・・・。


『それにしても皆さん・・・くっ…ぶふっ・・・あはは!!』



変、変だァ!変すぎる!!


ごつい顔の親父が綺麗な着物着てる!!


しかも着物の下からチラチラと脛下が出入りしてる!!!



ヤバイ、ヤバイって!

本当にコレ、爆笑し過ぎて腹筋割れる!!


も・・・もうだめだァ!!!




『あははっあはははっ!!!』


失礼だけれど、物凄く失礼だけれど
笑いを止める事ができなかった。


本当・・・だめ・・・。









***



結局あの後暫く笑いが止まらなくて・・・ああ、明日筋肉痛になりそうだ。

結構アレはきつい。
風邪引いて一日中咳き込んでた時の次の日もきつかった。

アレは地味にきつい。



とりあえず治まった俺は皆と集合する。


其処にはやはり、局長が待機していたわけで・・・



近「みんな準備はいいか?」



ごっ・・・ゴリラが着物着てるっ


似合わないを通り越して・・・

ごめんなさい・・・


・・・・・・笑えねェよコレぇぇ!!



どう突っ込んであげればいいのか全然わかんねぇよ!!











結局俺はそのまま放っておく事にした。

誰もがそれが一番だと思ったと思う。

現に俺が土方さんに相談した時彼もそう言っていた。




『結構店多いんだァ!!』


早速丸子氏神社に潜入した。
普通に一般人に紛れ込んで調べるだけだ。


だけど、ふと気づいた・・・。

別に俺って、新入隊士だから敵に顔割れてなくね?


ま、いいか〜。



とりあえず〜・・・楽しもう♪




・・・は浮かれ気分だ。




いろんな屋台に目移りしていると、若い男達が近づいてきた。


「ちょっとそこの君?」

『・・・なんすか?』

早くもバレて・・・・・・とかねーよな?
似合ってなくても、流石にオカマには見えねーし。



と思ったが、一応太ももに括って隠し持っていた短剣に軽く触れる。


だが、男達の次のセリフに俺の考えは変わった。


「俺たちと遊ばない?」


は?ナンパ?ナンパですか、コレ?
俺を襲おうっての?
無理無理。止めとけって。



目で訴えてみるが、誰も気づいていない。
それどころか、助けを求めているような目に見えている様だ。


『ちょっ…やめてください!』


とりあえず一般人のフリしねぇと・・・。

まあ、此処から人気の無ぇ場所まで行っちまえばこっちのモンだしな。




取り合えず・・・今は女らしく、女らしく・・・。


「つべこめ言わずついてこいよ!!」

無理矢理俺の腕を引っ張る俺。
え〜っと、こういう時言うせりふは・・・

『いや!』


うん、コレだ。
そんでさりげなく抵抗しつつ、人気の少ないところに・・・。


と思っていた時だった。



土「オイ、そいつを放してもらおうか」



『ひじ・・・』

ってダメだ!咄嗟に口を覆う。
土方なんて名前言ってもしそのセリフを聞いている奴がいたらどうすんだ?

バレるじゃねぇか!

でも、ひじ・・・まで言っちゃったし・・・。


『こさん・・・ひじ子さん!』


我ながらナイスフォローだ!!



(ひ・・・ひじ子さん・・・?フォローになってねぇよ!!)
土「そいつ嫌がってるだろーがよ」

あくまでクールな土方さん。
うん、やるねぇ〜。

カッコいいよ、お姉さん。
俺の姉に欲しいです。



「何お姉さん?君も遊んでほしいの?」


その言葉に驚きを見せる土方さん。

ああ、今女装中だった事を忘れてたのか。


大丈夫かな・・・なんか心配になってきた・・・。


土方さんの方を見ていると、首元に腕が回ってきた。

嫌だと訴える様に目を向けると、男は顔を近づけ、こう呟いた。


「俺たち麻薬の密売してんだ!お前らにも分けてやるよ」

「『!!』」


俺と土方さんは互いの顔を見合った。

そしてアイコンタクトを交わす。



"大人しくついていくぞ"

そう語ってた。





***


数分歩き、たどり着いた場所は神社から少し離れていた。

木が生い茂り、薄暗いためかなり不気味である。


「ここだ」


そこにはたくさんの人がいた。
もちろん、皆堅気の人間ではない。

怪しい雰囲気を醸し出した者ばかりだ。


『・・・ボスはどこなの?』


声が一瞬低くなったが、すぐに高めにする。

こういう時はぶりっ子が一番だろう。

気分が悪いし性に合わねぇけど、仕方ねぇな。


「あ?俺だぜ、此処のボスは」


予想外だった。
こんな貧弱の人間が一番偉いとは・・・。

だが見た目と実力は関係ねーよな。

俺だって見た目はか弱い普通の女だ。



『そっかぁ・・・会えて嬉しいです。
だけど今日でお別れですね、寂しくないけど』


「は?何言ってんの、お前?もしかして既に薬中?」


『は?』
土「んなワケねーだろ」


―カシュッ―
―カシャッ―


土方とは同時に短刀を抜く。

そしてそのまま滑らかに目の前で構えた。


本当は長刀が良かったのだが、それは流石にバレる。

でもまあ、このレベルなら短刀でも行けるだろう。



土「そういやお前の実戦見んの初めてだったな。お手並み拝見とするか?」

『いいですね〜』


にこりと笑い、お互い背中合わせになる。



「な!?お前ら!?」



何者だ?と言いたげな顔。

はいはい、もちろん名乗ってやるよ。


『武装警察真選組だ!』
「神妙にしろ密売犯ども!!」






***


苦戦はしなかったが、流石に短刀、長刀にはリーチが足りなさ過ぎる。
短刀は役に立たなかった。


だから素手で倒した男から奪い取り、戦った。


長刀が手に入ればこっちのもの。

長期戦にならずに、戦いは終わった。



無事奴らは逮捕され、
俺達は一休みの一服。


土「なかなかじゃねーか」
『どーもです!』


奪った長刀は破棄した。
俺達が使うような代物でもないし、奴らと一緒に送っても無意味だ。


だから、その長刀は鍛冶屋で壊させた。



土「じゃぁ帰るか」

『あ、俺ちょっと寄る所あるんです』

土「・・・分かった。伝えとく」


『ありがとうございます!』





俺は土方さんを背に、歩き出した。



の後姿を眺めつつ、思い込む土方。





あの切り口・・・どこかで・・・





〜後書き〜

はい!!第七訓終わりです!!男の脛毛って暑苦しいって意味わかりました?