夢は終わるものじゃないのか



第三訓 夢は終わるものじゃないのか




俺が銀時を気絶させてから暫くたった。
太陽が沈みかけた時だと思う。


女の子の高い声と、成長期の男の子の声が玄関から聞こえた。


「ただいまヨ〜」
「ただいま帰りました」


どうやら新八と神楽が帰ってきたようだ。

初対面だけど、俺はそんな気がしない。



同じ部屋に二人が入ってきて、
その姿を目にした俺は火照った顔で呟く。


『…///…ほっ…本物だァァ!!』


ガッツポーズをする。
可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い。


銀「本物?」


あ・・・しまった。


『ほっ…ホラ!!
銀時を知ってるように二人も…ね?』

銀「ふぅん…」


なんとか誤魔化せただろうか?
ちょっとヤバかったな・・・うん。



神「銀ちゃん誰アルか?この人」

俺を見てから指差して言う神楽。


愛しの神楽に冷たく言われてプチショック。

うう・・・。



新「失礼だよ神楽ちゃん!

あの、どなたですか?」



確かに神楽と違って接客態度というものができてるな。
うん。できた子だ、君は。


新八の問いに銀時は頭を掻きながら答えた。


銀「今日からここに住む事になっただ――」

神「ここに住むアルか!?何者ヨコイツ!!」


銀時が言い終えるか終えないかのとこで神楽が口を挟む。


ご尤もです。


家に帰ってきたら知らない女がいて・・・――多分皆は俺が男だと思ってるだろうけど――
そんでもっていきなり此処に住むだ?

俺だって逆の立場だったら嫌だな〜なんて思うよ。多分。

もちろん。神楽が住むっていうなら喜んで歓迎するけどな。



神「…ううう〜」

小さく唸る神楽が凄く可愛い。
だけど、そんなに悩んでるなんて、嫌われてるなと実感させられる。


 
『・・・そうだよな・・・。迷惑だよな…ゴメン…』


やっぱりショックだった。
普通に好きな子に嫌われてるなんて思ったらショックだ。



銀「おいおい、何コレ。俺の意思とか関係なし?」

ソファでだるそうにしている銀時の声は
俺の耳には届かなかった。



そういえば右ポケットに酢昆布あったな。
お土産として此処に置いておくか。


『・・・酢昆布あんだけどここに置いてくな』


そう言って涙のお別れ…

玄関に走り去ろうとしたら…



神「待つネ!!酢昆布くれる。いい人ネ!
ここに住むこと許すアル!私神楽いうネ!神楽って呼んでヨ」



・・・ありゃ?


居間から出て行こうとした時だった。
神楽の大きな声に呼び止められてゆっくり振り向く。


本当にいいのか?
・・・いいんだよね?

答えは聞いてないけど。


驚いた顔から微笑みに変える。


『神楽・・・サンキューな。
俺のことはって呼んでくれ』


多分今までの笑顔の最高な部類に入ってんじゃないかってくらい。


神「…悪い事言ってごめんアル
私、ジェラシー妬いてたアルヨ!!」


『神楽・・・』


何にジェラシーを妬いてたのかは謎だが。
本当に大きな謎だが・・・。

まあ、嬉しいからいいか。



神「それにしてもってかっこいいネ。
結婚してやってもいいアルヨ!!」

『ふぁい!?』


え〜っと・・・今なんと?

呆けた面で神楽の方へ向く。
はっはっは・・・聞き間違いだよね?
結婚とか聞こえたけど・・・。

ま、まあ。
そうだとしても俺らの年齢達してないからね。


銀「何言っちゃってんのォ!?お前!!」


銀時も焦ってる感じ。
でも、銀時も俺が男だと思ってんだよな、多分。

だから俺とは違う意味で焦ってんだな。


新「でも…」

ちょうどそこに新八が口を挟んだ。

でも?
でも、何?


銀新「確かにかっこいい・・・」

『へ?』


銀時と新八の声が被った。
あの・・・さっきから何言ってんだ、こいつら?

未だに呆けたままの俺の顔を覗き込みながら銀時が言う。


銀「お前…さっきはそんな暇なかったけど
じっくりみるとイケメンじゃん!!」

新「ホントですね!銀さんよりすっごくかっこいいです」

銀「あんだと?俺の方が100倍カッコいいだろうが」


確かに。
銀時の方が100倍カッコいいよな・・・。



『え〜っと・・・サンキュ』



そうなのか?って聞きたかったけど。
なんか答え返ってこなさそうだったし、とにかくお礼を言っておく。



ま、どーせなら…



かわいいっていってほしかったァア!!



まあ男装してるから無理だけど。




『銀時には負けるって』


笑いながら銀時に言う。
すると、マジで!?と思ったよりも凄い嬉しそうに笑った。


新「お世辞ですよ!そんな甘いわけないでしょ!!」


新八が興奮した銀時を押さえつける。


でも実際そんな甘いんだよな。
現実は銀時モテモテだから…


うん。





新「そういえば・・・」


とりあえず一段落した後、新八がゆっくり口を開いた。

その言葉に銀時は耳を貸す。
俺は言葉に耳を傾けながら神楽と遊んでいた。


新「どーしてこうなったんです?」


新八の問いに、銀時が俺を見る。

その時は神楽と楽しそうに笑っていたが、すぐに銀時の方を向いた。

銀時はそのまま表情を変えることなく、新八に言う。


銀「なんか家が家事になって無くなっちゃったんだってよ」

『え?!あ、・・・うん』


驚いた。
銀時の気遣いだろうか・・・。

ソファに座って未だ気ダルそうに話す男の優しさが実感できた。


新「そうだったんですか…」


新八がその言葉に頷くと、お茶淹れますね。と言って台所に入って行った。


神楽はいつの間にか傍にはいなくて、何処行ったのか分からない。

机に置いてあった酢昆布すら無くなっていた。


辺りに誰もいない事を確認して銀時に問う。


『銀時、ありがとう』

銀「あ?流石に言えないだろ、トリップしてきました〜なんて・・・」


『だよな。銀時だって疑ったし…』


銀「おまッ!!信じたじゃねーかァ!」


銀時は小さく蹲ってしまった。
まるでいじけた小さな子供。
うん。可愛い。



『分かってるって!
信じてくれたから住ましてくれるんだろ?』

銀「…」

俺の名前を呟いた俺を見上げる銀時。

その顔を見て俺は・・・


ブッ


咄嗟に鼻を押さえて後ろを向く俺。
ヤバイヤバイ。


銀「え?何!?くーん!?」


後ろで銀時が俺を呼ぶ声が聞こえるが、一先ず焦る。焦る。焦る。


くっはあ!

か、可愛いよ銀時!!

思いのほかかわいすぎて…




鼻血出しちゃったよ!!


とりあえず止血をしてから銀時を見る。

未だ目線の先にはしゃがんでこっちを見上げる銀時がいて、
再び血が出そうだった。



あぁ・・・腐った考えしか出てこねぇ・・・。

やべェ…


パー子以外に女装させてェ!!!


頭の中で沸き起こる欲が俺をめちゃくちゃにしていく。

暴走し出した頭を銀時の言葉が止める。
 

銀「ちょっとどーしちゃったの?」

『うわっ!!』


銀時が俺の肩を揺さぶった。

気付いたら目の前に銀時の顔があった。


銀「いきなり鼻血だして…大丈夫か?」

『だっ…大丈夫…』


可愛すぎるぜ銀時!!



未だ鼻を押さえ続ける俺に、
今まで何処に行ってたのか神楽が寄ってきた。


神「、大丈夫アルか?」


下を向く俺の顔を覗き込む神楽。



くぁ〜〜!!
可愛すぎるぜ神楽!!


新「ティッシュどうぞ」

お茶を持ってきた新八が、ティッシュを差し出してくれた。
それを受け取って鼻を押さえる。


さりげない心遣い・・・

癒しキャラだぜ新八!!




ここに住めて幸せだよ、俺。

ああ、あとは真選組に会うだけだな。
それでもう銀魂世界は満喫できる!






***





夜になった。
辺りは暗くなっていて、都会の江戸でも沢山の星が輝いていた。


新八の作った夕飯も頂いて、
新八を見送って、
お風呂にも入れさせてもらって・・・

服はとりあえず銀時のを借りて・・・


さあ、寝るかってとこまでいった時。


神「そういやはどこで寝るネ」


という神楽の一言。



『あ…』

忘れてた。



俺相当物覚え悪いんだよね。

この前だって道間違えて海に出てたし。

どうすればいいんだ?
ソファか?ソファに寝ればいいんだな?


という問いをアイコンタクトで銀時に伝える俺。

だが銀時には届いてなかった。


銀「だよな〜どこにしよう…部屋ねーし…」

神「は一緒に寝るアル!」


ビシッと手をあげる姿が本当に可愛かった。
その姿に見とれつつ、二人のやり取りを見守る。


銀「押入れじゃ無理があるだろ!それにお前・・・に襲われるぞ!!」


否…俺同姓だから。
つか、ハッキリ言いすぎだから。


というか、俺は別に何処でもいいんだけどさ。

神楽がだめなら・・・



『銀時と一緒でいーよ』


「「…え?」」



シーンと辺りが静まる。
俺の言葉で二人が硬直した。



アレ?俺まずいこと言いました?



数秒無音が続いた後、神楽が口を開いた。


神「ダメアル!男は皆猛獣アル!なんて食べられてしまうヨ!!」

『否なんで同姓――だと思われてる――なのに食べられる?』


はっはっは。
神楽ちゃん。何でそんなにそういった事に詳しいのかな?


『それに一緒の布団で寝るわけじゃないんだしよ』

「「そーなの?」」


へ?
アレ?俺がおかしいの?
俺がおかしいのか!?


『え?何?寝る部屋一緒=同じ布団なのか?』

銀「いや、別にそーじゃねーけど…」


じゃあ、いいじゃん。

『じゃぁ決定!!』


一方的に話を切り上げ寝室に行こうとする。

どうやら布団はあるみたいだし。
うん。上出来じゃん。






布団に入って数時間。
俺はずっと、戦っていた。


もう物音すら聞こえぬ夜中なのに。
俺は全く眠れない。
眠気すら感じない。


頼むから・・・眠らせてくれ!!


でも寝れねーよ。
だって、横で銀時が寝てるんだよ?

みんなのアイドルの銀時が!!



未だ興奮する気持ちを抑え、横を見る。


ん?アレ?


いるはずの存在がいなくて、
いつの間にか布団は蛻の殻。


いねェ〜!!


銀時いねェ!!
何で!?何で俺気づかなかったんだ!?

え、俺一瞬でも寝た?
寝たの?
それともこれが夢!?



・・・・・・どこ行ったんだろう・・・。


ま、いいか。

とりあえず今いないんだ。寝よう。


そう思ったけれど、体が冷えたのか尿意を感じた。


『・・・・・・トイレ行こう』


あ、此処では厠って言うんだっけ。
ま、いいか。



寝室を出て居間を通り厠へ向かう。

廊下が冷えて足が寒い。
もう一枚何かを羽織ってもいいくらいだと思う。

この季節、何でこんな涼しいんだろう。



そう考えているうちに目的地についていた。

鈍い木の擦れる音をさせ、厠の戸を開ける。




そう開けたんだよ。

・・・なんで開くの?



目の前には銀色の髪と大きな背中。
うん。見覚えあるよね。
なんで・・・この状態で開くのかな?

つか、逆に言えばなんで開いてる厠に銀時入ってんのかな・・・?



何故だか妙に落ち着いている俺・・・



・・・でもなかった。



『鍵閉めろォオ!!!』


夜中だというのに、大きな声で叫ぶ俺。

うん。落ち着いていられねーよ、んなもん。


銀「ぅおッ!?なんでいんの?」


叫んでやっと気づいたのか。

白夜叉なら足音で気づけ、コラ。
そして思いっきり背後入られてんじゃん。

ねえ、君本当に白夜叉?




銀「嫌ァ見ないでェ!!!」


・・・絶対違う気がする。
なんか、、カッコ悪い。



『だったら鍵閉めろよカス。閉めなかったのが悪いんだよ。
こちとらお前のそんな小せぇもん見たくているんじゃねーんだ、どけコラ』


酷い事をつらつらと述べる俺。

あ、一応言っておくけど見てないからね。
安心してね。


銀「ってホントにさ〜・・・」

『なんだよ』


Sだよな・・・という言葉をかき消す銀時。

だがその後はただ、今どくよとだけ言った。




何故だろう・・・
なんだろう・・・この気持ち。

何故だか懐かしい気がした。


・・・こんなのが懐かしいのも気が引けるが。



『兄ちゃん…』

小さく呟く俺。
今にも消え失せそうな言葉なのに、銀時の耳にはしっかり届いていた。


銀「・・・兄ちゃん?


オイ!


何泣いてんだよ!!」



『え?』



何でかわかんないけど
俺の目から涙がポロポロと止むことなく流れてた。

泣きたいわけじゃない。
というか、こんな姿誰にも見せたくない。


だけど、だけど。

止める事ができなかった。



『何でかな?止まらない・・・。
なんか銀時と話してたら兄ちゃん思い出して・・・それで・・・』


兄ちゃん・・・か・・・
懐かしいよね。


銀「…なんかあったのか?


聞いてやるよ」


銀時の優しさにまた少し涙が出てきた。


俺はトイレにいきたかったのを忘れて銀時についていった。


俺たちは寝室に戻り、布団に入る。


そして、簡潔に銀時に話し始めた。




 


俺はできるだけ短く話した。


両親は俺が小さい頃死んだ事
唯一血の繋がってんのが兄ちゃんだけって事。


兄ちゃんとは1つしか変わらない事。
馬鹿なのに妙に頼りがいがあって
剣術や武術に強くて剣道部主将だった事。
その影響で俺も剣道をやってたし、部の主将になった事。


仲のよい兄妹だってみんな言ってた事。



そして・・・



去年行方不明になっちまったって事。



銀時は真剣にその話を聞いてくれた。

何もせず、何も言わず。
いつもの気ダルそうな顔じゃなくて、真剣な目が暗闇の中俺の目を見ていた。


『これは兄ちゃんにもらったんだ』


俺の首元からペンダントを取り出す。

そして銀時に近寄ってそれを見せた。

シルバーの鍵がついていて、月の光にそれが照らされていた。




銀時はそれにそっと触れるだけで、視線を俺の顔に戻した。

無言のまま、
ずっと俺を見ていた。


『なァ・・・銀時』

銀「ぁあ?」



さっきまで何も言わなかったのに
何か問えばちゃんと答えてくれる。


人の話はしっかり聞いてくれるし、答えてくれる。

本当にいい人だと思った。


『・・・・・・添い寝していい?』


枕を掴んで銀時の布団に入る。
うん。聞いておいて勝手にしてます。


でもこれで断られたら俺悲しいしね。


銀「ぶはっ」


少しの間の後銀時が噴出した。

それを怪訝な目で見る。



『・・・・・・ヤラシイ事考えた?』


冗談みたいに笑って言う。

銀「……ゴメンナサイ」


え、マジなの?



『・・・マジで考えたの?

ヤラシイって・・・



俺達同姓だし』



と思ってるんだよな、銀時は。

だったら、何でそんな風に思ったんだ?




銀「否・・・お前男の癖に・・・


女みてぇな笑顔見せっから…」




ヤバイヤバイ。

ちょっとヤバくね?

バレそうじゃん!!



体を起こしたままの銀時が俺を見下ろしたまま優しく笑ってる。


でも俺は、凄く焦ってた。


・・・はずなんだけどな・・・。



いつの間にか俺は寝ていたんだ。





安心したからなのかもしれない。

銀時がそばにいてくれるだけで。


俺は凄く、心が落ち着いた気がした。







***






『ん・・・銀・・・時ぃ・・・』

銀「・・・なんだ?」


隣で呟いた声に、声をかける。


だが、未だに気持ちよさそうな顔ですーすーと静かに眠る姿を見て、

ああまだ寝てるのかと思う。


銀「・・・ああ、寝言か・・・」


そいつの顔を見ていたら、
いつの間にか腰に回っていた腕が俺を強く締め付ける。


銀「・・・・・・これは拷問ですか?」



理性を保て俺!!


相手は男だぞ!!



離してほしい。

だけど、無理矢理離そうとはしない。

幸せそうな顔が、何故かふと悲しく笑った。



『・・・兄ちゃん』


の目から涙が流れていた。

一粒の雫が頬を伝って枕に小さな染みを作る。



目元に残った水を指で掬い取る。


銀「その寂しさから俺たちが開放してやるよ」



やさしくの髪を撫で、


そしてふわりと笑った。



 





〜後書き〜

第三話終わり・・・。
一度書いたものの編集って結構キツい。
でもこの調子でどんどんぶっ放すぜェ!!!きゃっほぉい!!
すいません。壊れました。
今回微妙なシリアスですね。
次くらいに彼女を暴走させたいです(笑)