いつまでたっても子供の心




眠い。

眠い眠い眠い。



なのに眠れないのはどうしてだ?

眠らせてくれよ。

欠伸たっくさん出てるよ、コレ。
10分に5回は必ず出てるよ、コレ。



何で寝かせてくれねーの?


俺に寝るなってか?
寝るなってか?






まあ、今夜は寝るの、多分無理だな。






だって・・・














総悟が隣で寝てるし・・・











第五訓 いつまでたっても子供の心





淡い月の光が自身を照らし、
その上隣で眠る人間を含め近くの4人の者の顔をも照らす。

締め切った窓を通して遠くの方から犬の遠吠えが聞こえてきた。



見てる分には癒される光景ではある。

だけど・・・


今の俺の手汗は凄かった。





昨日の夜がきっかけだった。

俺が屯所に入る=仲間になったという考えなのか、
近藤さんが「ちゃんよろしくパーティーやろう!」とかいきなり言い出したわけで・・・。

沢山のご馳走が出てうれしい反面、酒臭い。
皆はただ酒が飲める機会ができて嬉しがって
じゃんじゃん飲みまくっていた。


そのおかげで皆様ノックダウン。


未成年者である兄貴や総悟でさえ飲み比べして倒れてるしさ。



俺だけよ。
酒飲まなかったの。


次に飲まなかったのは土方さん。
少しは飲んでたけど、程ほどにしていた。
明日会議があるらしいから。


で、残った皆は大広間でぐったり。
俺に泊まる部屋を用意する前に皆違う世界に旅立っちゃうんだもの。

俺も皆と一緒に寝たのさ。


皆のいびきが凄い事凄い事。



寝れない〜とか思ってたら誰かが近づいて来たんだよね。
顔を見ようとしたけど月の逆光で見えないし。

その人間は俺の前で止まって屈んだ。
そして腕が掴まれた。と同時にそのまま倒れたわけさ。

咄嗟に起き上がって顔を見てみたら





沖田さんだったわけですよ。




もういつの間にか意識ねーし。
俺は腕掴まれてるから動けねーし。起こすのも可愛そうだし。


そのままにしておいたけど眠れない。





近い近い近い!!!





結局、俺は一晩眠れなかった。

朝日が俺を照らし、未だに目覚めない皆の顔を見ながら俺は微笑む。

眠くて死にそうなくらいなのに
何だかむさ苦しいはずなのに、皆の顔見てると自然と笑顔になった。



気づけば皆の鼾は何処へら・・・聞こえなくなっていた。

そしてそのまま俺は掴まれた腕が解かれたのにも気づかず寝入った。






「・・・・・・・・・ホント、馬鹿な奴」



・・・まあ、俺も馬鹿だよな。





馬鹿野郎・・・









・・・









***




呼ばれた気がした。
でも目を覚ます事ができない。


夢だと分かっているのに。
目の前で呼ぶ両親の影を追いかけてる。

夢だと分かっているのに
目覚めたいと思っているのに


何故か・・・
俺は追いかけ続けていた。


そして空から聞こえた気がしたんだ。

名前を呼ぶ誰かの声が。











目がゆっくりと開く

いつの間にかそこには誰も寝ていなくて、

皆そこで朝食を食べているはずなのに、そこにいたのは兄貴だけ。


『・・・・・・』


まだ頭がぼーっとしていながらも辺りを見渡す。

壁に寄りかかって立っていた兄ちゃんが近づいて来た。



「やっとお目覚めかい、眠り姫」

『何言ってんだか。ところで・・・・・・今何時?』

「7時」

『じゃ、別に遅くないじゃん』

「隊士はもうとっくに朝稽古始めてんだよ」



・・・確かに・・・。

俺ら真選組は大抵5時から6時半のうちに起きる。

時間が曖昧なのは、基本は6時半なのだが仕事によって5時に起きる人もいるからだ。


夜間勤務の者や丸一日仕事していた者はずっと寝ていられる。


だから曖昧なんだけど・・・



ちょっと待て・・・。


『もしかして俺が寝てる中皆朝食食べてたって事か!?』



冷や汗をかく。

え、ちょ、本当に!?
マジで!?
ね、俺皆の前で爆睡!?え、ちょ!!

恥ずかしいにも程があるわ!!



兄「あ〜・・・食べてたわ」



『嘘ぉぉおおお!!?何?
俺のキュートな寝顔が奪われた!?


兄「安心しろ。誰も好きでお前の寝顔なんて見てねーから」



あ、突っ込むところ其処ですか?


・・・逆に突っ込まれねーと悲しい・・・。



兄「お前も早く来い。ちゃっちゃと朝飯食って手伝いしろ。
いくら今は隊士じゃなくてもずっと寝ていていいわけねーだろが」



兄ちゃんはそう言うと出て行ってしまった。残された俺。
沢山朝食が並べられていたであろう長机には一人分の朝飯。
温かそうなご飯と味噌汁だった。


『・・・へいへい』


兄が去っていった襖を見つめてから
すっと足元を見て呟く。

視界に入った淡い色の女物の着物。
あの格好のまま寝ていたのか、俺は。

総悟に気を取られてて忘れてた。




兄ちゃん・・・
なんか前より厳しくなった気がする。


ツッコミ数も減った?
怒る量が増えた?


なんか・・・違う・・・。




ま、気にする事なんか無いか。



今丁度反抗期なんだ、きっと。





一度に頬いっぱいご飯を詰め込んで、味噌汁を音を立てて啜る。

何度もその行動を繰り返した。
量は一般人が食べる量じゃなく、多い。

真選組隊士にはスタミナが必要だった。

かと言って、今の俺は隊士じゃないのに・・・。




・・・やっぱり、一人で食べる飯はまずい。



一人ぐらしに戻ってそう思った。
折角それに慣れたというのに、昨日のドンちゃん騒ぎ。


やっぱり俺は皆と一緒がいい。




丁度食べ終わった頃、その時間を見計らったのか、女中の人がお茶を持ってきた。

さん、どうぞ」

『ありがとうございます』


にこりと笑ってお茶を貰う。
熱いお茶に息を吹きかけて表面を覚ますと少しだけずずっと音を立てた。


『よく分かりましたね!今食べ終わったって・・・』


少しだけ興味が沸いたので聞いてみた。
あまりにもジャストタイムだったから・・・。


もう一度息を吹いてお茶を啜る。
朝の冷える体が温まっていく。


「ただ・・・これくらいかな〜って思ったんですよ」



ふわりと笑う女中さん。

あ、この人俺が初めて此処に来てから一番最初に俺によくしてくれた人だ。

まだ若いと思う。20代後半というところだろうか?

何でそんな人がこんな場所に・・・


と思ったが口に出さない。

とりあえず、今言おうとしている言葉を聴こうと思った。



「・・・・・・さんがこの量を食べるのにかかる時間がこの時間なんですよ・・・」



瞳孔が少し開いた気がする。
すぐに戻ったけれど。


驚いた。でも凄く嬉しかった。




覚えててくれた、俺の事。

細かいところまで覚えててくれた。




さんって・・・本当にさんにそっくりだから・・・。
あの、ごめんなさい。迷惑ですよね。似てる似てないとか関係ないですよね!!」


焦った女中のお姉さんが弁解する。

そんな彼女に俺は横に首を振った。



『ありがとうございます!!
俺、嬉しいですよ。そう言ってもらえて・・・』



笑いかけて立ち上がる。

少し足が重かった。やっぱり着物は慣れないな。



「っえ!?・・・あ、あの・・・」



襖に手をかけた時、女中さんの言葉に呼び止められた。


襖に右手をかけたまま体を捻る。

その時見えた彼女の表情が、何か言いたげな様子だった。




多分、この事だろう。




俺は左手をそっと口元に寄せ、
人差し指を立ててふわりと笑った。




"この事は誰にも言わないでくださいね。秘密ですよ"



そう口パクで言った。
女中さんの口からは音という音も出ずに、ただただぱくぱくと動いていた。



『覚えててくれてありがとうございます』



軽く会釈をして襖を開け、ゆっくりと廊下へ出た。


廊下は少し寒い。
一瞬身震いしたが、そのまま歩き出した。



何で俺、わざとばれるような言い方したんだろう?

だけど答えはすぐに見つかった。





ああ、そっか・・・







冗談でも・・・






この人は騙したくないって





そう思ったんだ。













***




『んんっ〜〜・・・―』


大きく伸びをする俺。
縮まっていた全身が一気に伸びて気持ちがいい。


ちなみに俺、今久しぶりのかぶき町の町並みを見ながら歩いている。
昨日総悟と一緒に少し歩いたが、今日は別のところに行きたくなったのだ。


銀時達にも、会ってないし・・・。


太陽に照らされながらのんびりと歩くこの時間。
総悟と一緒の市中見回りを思い出す。

奴といると平和だった。




なんたってわざと平和な道を歩いているんだから。


仕事になってないと言われたら・・・そうなんだけど。





洋服店の前に来ると、ショーウィンドウに映った自分の姿を見てみる。


『・・・やっぱ似合わねぇな〜・・・』


流石に昨日と同じ格好じゃヤバイので適当に若い女中さんを呼び止めて貸してもらったのだ。


隊士に着流しを貸してもらいたかったのだが、それは危険な行為だ。

すぐバレる。確信があった。


だって、ほら・・・
男の着流しなんて着たらそのものなんだぜ?
無理だって、無理。

絶対ばれる。

女モンでも危険だったが、本来俺は女物の着物なんて着ない。
だからバレずに済んだってのもあると思う。



『は〜・・・早く解放されてぇな・・・』


バレるなら、早く・・・。



―ブワッ―・・・

『うわっ・・・』


強い風が辺りを覆った。
短めの茶色い髪をぐちゃぐちゃにしていく。
咄嗟に目を瞑り、腕を顔の前まで上げる。
体が強い力で押されていく感じがした。

風が治まって、そよ風が着物の襟をひらひらと揺らす。


腕も下ろして目もゆっくり開ける。
再び、ショーウィンドウに映った自分が目に入った。



うわ・・・変な顔・・・。



女の着物嫌だな〜・・・
早く脱ぎたい。脱いで男の着物着たい。

って、俺こんなん思うのってまるで男じゃん。
女って普通綺麗で可愛い着物着たがるんだろ?


・・・・・・。
もういっその事
チ○コ付けようかな



はっはっは。無理無理無理。
だって何かぶら下がってんでしょ?
臭いんでしょ?


あ、でも・・・
どうせつけるんなら大きいのがいいよね!


で、男子ってそれにこだわるよね。
太いのとか・・・。
どうでもいいと思うのは、やっぱ俺が女だからか〜

ま、どうでもいいんだけど。



ふと視線を上げると目の前には自分の影の後ろに人影が映った。


はっきり映ってないから誰だか分からないが確かに俺の方を見てる。

この店に用がある様子でもない。
視線は俺の後姿にあった。


誰だろうかと確かめるべく後ろを向こうとする。


だがその前に、そいつは俺に向かって言った。



「・・・・・・?」




自分の目が大きく開いた。
聞いた事のある、低く俺の好きな声。

驚いた顔のまま素早く後ろを振り返った。



そよ風に揺れ、太陽光が反射してきらきらと輝く銀色の髪。

綺麗なそれが視界の隅にちらつく。
だけど俺の視線は当人の顔に注がれていた。



『・・・銀時っ・・・!』


声にもならないくらい掠れた声で呟いた。
銀時は俺の顔を確認して再び驚く。
俺が振り返った時、お互いに驚いていたから。


また会えた。
会いたいと思ってたら、また会えた。


どうしようもない嬉しさが湧き上がってきて、咄嗟に銀時に抱きついた。


今真選組には従妹だと騙してるという事を忘れて・・・。



銀「わっ・・・危ねっ・・・」


咄嗟に支えてくれた銀時。
銀時の綺麗な顔を見るのために俺は顔を上げた。


背が高くて、こんなに近いと首が疲れる・・・。

そう思って体を離した。


『銀時っ・・・久しぶり!』

銀「おう、元気そうだな」


優しく笑顔を浮かべてくれた。
この笑顔が俺は大好きだった。
今でも、これからも大好きだけど。


銀「・・・何だ?その格好・・・?」


俺の格好を上から下まで往復して見て言う。

銀時の視線が最後に俺の顔に注がれた。


『いや〜・・・え〜っと・・・コレは・・・』


どうしようか・・・と悩む。
言うべきか・・・。
でも俺がって事はもうバレた。

・・・言うしかないよな。



『取り合えず、万事屋行こうぜ!其処で話すよ』


背中を押して万事屋に向かわせる。

うわ〜大きいな、背中。



ぎ、銀時の背中っ!
腐った血が体中を巡って興奮してきた。
俺の手が勝手に銀時の背中を摩る。


銀「・・・何してんの?」

不思議がってこっちを見たけど、何でもないと冷や汗をかきながら答えた。


万事屋に向かって歩き出す。
ビルやらおしゃれな店やら、キョロキョロと見ながら歩いた。
挙動不審みたいとか言われても仕方ないよな。


暫く歩いていると、銀時が話しかけてきた。



銀「さっきガラスの前で何してたんだ?」


この質問に体が止まった。



言えない。
チ○コの事考えてたなんて言えないっ!!

しかも付けようとか思ってたなんて言えない!!



『は・・・はは・・・。ちょっとこの格好が慣れなくて・・・さ』


顔が引きつりながらも言葉を紡いだ。

あ〜ヤバイヤバイ。

これからは一人で変な考え事しないように気をつけよう。






懐かしい通りを通って、懐かしい場所へ向かう。

決して大きくはないけど、力強く存在する「万事屋銀ちゃん」。


彼に何度助けられた事か
またこれからも、沢山助けられると思う。

でも今度は、俺も助けたい。



銀「・・・そんなに見ても何も変わんないけど」


スナックお登勢の2階をじっと見つめていると声をかけられた。


『ははっ、だよな。少なからず期待しちゃったよ』

銀「お前、馬鹿だろ?」

『いや〜、そろそろ万事屋の屋根が割れてネオアームストロングサイクロンジェット砲が登場する頃だと思った』

銀「間違えた。お前昔から馬鹿だったな」


つかよく覚えてるな〜そんな長ったらしいの、と言う銀時。

セリフは酷いが表情はとても優しく、本人も楽しそうだった。



銀「ま、とりあえず上がれよ。話あんだろ?」


少しさび付いた階段を上りかけ、此方を振り向いた。


『ああ。長くなるけど聞いてくれよ』


先に上っている銀時を追いかけて、俺は階段を駆け上がった。




銀時はガラスの張った玄関を開けると、帰ったぞ〜と居間に向かって叫んだ。


皆、いるかな・・・?

と期待する俺。
多分銀時が叫んでいるという事はいるんだろう。


銀時がブーツを脱いで、それに続いて俺も足袋を脱ぐ。

フローリングの廊下は少し冷たかった。



「銀ちゃんお帰りアル」


前から聞きたかった声が聞こえた。

この高くて独特な口調は・・・



『・・・・・・神楽・・・』


そよ風にさえかき消される様な声で俺は呟く。

俺は神楽に本当の事言っていいのかな?って

銀時に言うのは仕方ないけれど・・・。



神「・・・?」


だけど、居間から出てきた彼女を見て俺は凄く嬉しくなった。

悩んでいたけど、喜びには勝てない。


全然変わってないその姿。
たった半年だから仕方ないのだけど。

だが、されど半年だ。

会えなかった時間が物凄く長く感じてた。
もう何年も会ってないってくらい。



神「久しぶりアル!」

『久しぶりだな、神楽』



俺はこっちを選んだ。

真選組の皆みたいに驚かす作戦もあったが

やっぱ、万事屋メンバーには普通にする。

もちろん、協力してもらうつもりだ。


大体、万事屋までも騙す必要はない。

ただ、真選組の皆を驚かすって奴だって、ただの思いつきなんだし。


新「え、さん!?」


声を聞きつけた新八が顔を出して、やっぱコイツも変わってないなと顔がにやける。


『よ〜新八。やっぱりメガネ変わってねーなぁ』


新「メガネ関係ないでしょ!まったく・・・さんも変わってないですね」

『そーだな』



万事屋は俺にとって癒しだと思う。

のんびりとした生活だから・・・とかじゃない。


彼らが生み出す気・・・まあよく分からないけど

そういった口に表せない物が俺を癒してくれる。



だからこうやって・・・自然と笑みがこぼれるんだよな。


やっぱ、コイツら大好きだ、俺。



銀「さてと、話してもらいましょうか、その話とやらを」


『ああ。場合によっちゃ協力してもらうぜ』




これからもこいつら皆と楽しくすごして生きたい。

もちろん、真選組とも。


真選組は大切な仲間。
万事屋は大切な友達。

似てるようで、似てない。

真選組だって友達じゃなくはない。
万事屋だって仲間じゃなくはない。


なんて言えばいいんだろう?



とにかく、大切な存在。



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〜後書き〜

こんにちは、風雅漣です。
携帯サイトでは、4訓を書き終わって5訓まで完成させるのに3ヶ月と26日かかりました。
うわ〜スゲェ〜。そしてギャグもない。
いや・・・誰かギャグ提供してください(笑)

これを書き終わった前日まで熱で魘されてた人間ですが、
この文才の無さは熱とか関係ないですね。
これからもっと文を学ぼうっと。




良ければポチッポチッと。二回お願いします(*´∇`*)
感想も下さると嬉しいな〜なんて・・・


2008.02.28 風雅 漣