理性を保つのは案外難しい
第四訓 理性を保つのは案外難しい
大きな背中が逆光によって黒く見えた。
童顔な総悟も、顔が見えなければ男の人なんだなと思い知らされる。
ああ、この風景を見るのも懐かしい。
全てが、とても懐かしく思えた。
総悟の声が、体が俺を懐かしさで優しく包み込む。
あ〜・・・なんか俺変態じゃん?
あ、元からか。
太陽の光が顔を照らし、前がまぶしい。
目を細めて先を歩く総悟を見るが、当の本人は前だけを見て振り向かない。
『あの〜・・・沖田さん?』
敬語が使いにくい。
今までタメ口だったため、仲間に対し敬語を使うのに違和感を覚えた。
沖「・・・なんでィ?」
やっと振り向いた。
でも総悟の表情は逆光で見えない。
『・・・屯所に行くとか言ってましたけど・・・方向違いますよね?』
そう。俺達が向かっている方向には少し大きな公園があるくらいで、屯所は逆方向だった。
沖「あ〜・・・飽きた」
『意味わかんないんですけど
どういう過程で其処に結びついたんだろ〜・・・』
沖「・・・・・・。
説明すんの面倒だから回想どーん!」
『ヤベェ、余計意味わかんない!!回想って何?何処に答えに結びつく過去がありました!?』
沖「俺の心の中に」
『その清清しい顔やめてくんない?』
は〜・・・。
ホント、変わってない。
人を巻き込む性格。
勝手に人を巻き込んでさらっと水に流してしまう、そんな性格。
ああ。辛い。
再びこの生活が始まるんだな〜・・・
唯一不安なのがコレなんですけど。
これからの総悟の弄りが心配なんですけどっ!!
沖「まーまー。だからとにかく今はサボりに公園行くぜィ!」
『何処に"だから"に繋がる言葉あったの!?』
ヤバイ。またペースに飲み込まれた。
イカン。イカン。
コイツは台風だ。コイツは台風だ。
非難しなきゃ。
そして離れたらこんな事さらっと忘れて何日かぶりに出たブツと一緒に水に流そう。
あ、下品とか気にするな。
俺はもともとこういう奴だ。
『で、何?わ、私までサボりに付き合わせる気?』
別に嫌なわけじゃないが、
一度屯所に行こうと言ったのだから近藤さんとかジミーにも会いたくなったわけで
公園なんかで暇をつぶしてないで感動の再開をしたいわけよ。
分かる?この気持ち。総悟君?
俺の気持ちをめいいっぱい込めた視線を送る。
どうか届いてくれ
沖「トゥギャザーしようぜ!」
届いてねぇええええ!!!
つーか、何?
ルー大○っ!?
総悟の中では今ルー大○がピークなの!?
ちなみに俺の中では小島○しおがピークです。
でもそんなの関係ねぇっ!!
ってマジで関係ねーじゃん!
心の中で自分でツッコミしちゃったし・・・
ああ。もうどれもこれも・・・総悟のせいだ。
・・・・・・・。
総悟のせいにしておこう。
***
「どうしよう……俺今欲情してまさァ…」
『そうか、ならトイレットペーパーの芯にぶっさしてろ』
・・・どうしてこうなったんだろう?
今俺達は暗いところに居るわけで。
否正確に言えば、でっかいゴミ箱の中に居るわけで。
暗くてよく見えないけど、目の前には総悟の顔。
荒くなった息が前髪にかかってくすぐったい。
ヤベェ、俺も限界。
上に被さっている総悟を押し倒して馬乗りしてぇ・・・。
でも無理なんだよな〜・・・
だって・・・無理だもの。
・・・・・・動けないんだもの。
え、何でこうなったかって?
それは屯所に行く前だ。
たまたま行った公園に、攘夷浪士が集まっていた。
それを見た瞬間総悟の目は変わり、すぐに体を隠してひっそりと様子を伺っていた。
暫く奴らは話込み、そして公園から去って行った。
総悟は後をつけた。
まあ、必然的に俺も行かなきゃいけない感じだったわけで・・・
そして、怪しい通りに出てしまった。
派手でピカピカした建物がいっぱい並んでて、
夜に男女で来るべき場所。
・・・やってしまった・・・。
俺達の目の前には愛を育むホテルがあって・・・。
冷や汗を掻いていた時だ。
奴らが振り向いた。
俺があわてていると、総悟が咄嗟に側にあった路地裏に入り込んだ。
そして大人の体2人分入るゴミ箱に姿を隠したのだった。
でも迂闊だった。
隣はアソコだもの。
ラブホだもの。
奴らが動き回っている。
今この状況を見つかるわけにはいかない。
総悟はともかく、俺は一応丸腰の女だ。
敵が一人や二人ならともかく、数人いる。
総悟一人では女一人庇いながら戦うのは無理だ。
そう判断した総悟は、俺を下にしてゴミ箱の中で息を殺していたんだ。
そうしてこうなった。
辺りには敵の足音。
と同時に耳に入ってくるのは、隣の建物からの音楽と人の声。
そして冒頭に至るのだ。
沖「ヤベェって、ホント。流石の俺でも耐えられないって
何この音楽何コノ声!丸聞こえなんだよ!AV見てる気分だよ!」
『我慢してください!!』
やっぱ総悟も健全な少年だもんね。
発情はするよね。
自我を失ってる様な気もします。
だっていつもの総悟じゃないし。
てか、一人の女を押し倒しておいて発情しないなんてあるかコノヤロー!!
耳を澄ます。
敵の声だけを耳に入れる。
・・・足音が近づいてきた。
『ヤバイ。こっち来る!!』
二人の呼吸は止まった。
視線が総悟と重なる。
心拍数が上がってく。
ヤバイヤバイヤバイ。
だが、何も起こらず足音が側を通り過ぎた。
その時俺の心臓はバクバクだった。
沖「・・・はあ・・・だるい。臭い。しんどい。」
起き上がったと同時に不満を言う総悟。
無理も無いでしょうね。
はっきり言って此処、マジ臭いもん。
つーか、ホテルの横に作るなよ。
・・・助かったけど。
てかマジ臭い。
いやいや、総悟が臭いわけじゃないよ?
だって此処、ゴミ箱なんだから。
でも、俺も総悟も
今回はかなり疲れた。
緊張が解けて一気に楽になって。
やっと俺達は屯所に向かう事ができるんだ。
沖「・・・ふぅ。行くぞ」
一息ついて歩き出す俺達。
やはり一歩先を歩く彼の背中を見て思う。
いつか俺が自分から言わなくても彼は自分がだと気づいてくれるのだろうか。
そう期待してしまう俺が居た。
胸に何かもやもやとしたものを宿しながら、俺達は屯所へと向かった。
だんだん近くなる屯所と違って、俺と総悟の絆の様なものが遠くなっていく気がする。
俺を見ても何とも思わない総悟に不安を抱いたんだ。
ああ、俺の事を思い出さないのかって。
所詮総悟にとって、俺という存在は「ただの仲間」だったんだって。
俺は夢見てただけなのかな。
俺達は「大切な仲間」であるんだと思ってたのは俺だけだったのかな?
考えれば考える程不安が募る。
そうこうしてる間に、真選組の詰め所、屯所が見えて来た。
沖「ただいま戻りやした〜」
見張りの居ない門を潜り、玄関に入って行く総悟。
俺は此処に帰ってきた。
だけど、今は「」じゃなくて「」だった。
だから俺が今言えるのは
『・・・・・・お邪魔します』
という一言だけだった。
脱ぎにくい足袋を脱いで居ると、懐かしいゴリラが視界に入って来た。
『しくじった!バナナ忘れた!!』
沖「・・・バナナ?」
いっけね。
咄嗟に口を覆う。
今「」ではない俺は此処で近藤さんを馬鹿にするのは有るまじき行為だ。
ならいつものようにただの仲間の冗談として見なされるだろう。
だが「」としては初対面なわけで、初対面な奴が真選組で一番偉い人間を馬鹿にしたら、そりゃもう・・・悪い事だろう。
否今思い返せば、本当の初対面でも普通に失礼だったとも思うが・・・。
近「・・・お〜・・・やっと帰って来たか・・・。
先程隊士から総悟が見回りしていた地域で浪士の密会が行われていたとの連絡があったから心配してたんだぞ」
確かにそう言う近藤さんの顔はホッとした様な面だった。
そんな近藤さんに総悟はポケットに手を突っ込んで言う。
沖「それはすいやせんでした・・・。
何せコイツ、を案内してたんでさァ」
首だけで俺を指す。
近藤さんは視線を俺に向けて驚いた顔を見せた。
俺はぺこっと一礼して微笑みかける。
近藤さんとの再会も凄く嬉しかった。
だがそんな俺とは違って近藤さんの表情は硬く、先程から驚いたままだ。
近「・・・?」
沖「ええ。でさァ」
総悟が再び俺の名前を告げると近藤さんはそれきり何も言わなかった。
再び笑顔に戻って俺に笑いかけた。それだけだった。
近藤さんを先頭に、総悟、俺といった順番で廊下を歩く。
今から何処に行くのだろう?
まあ、この際屯所なら何処でもいい。
懐かしいこの匂い、感触が嬉しかった。
初めて此処へ来た時は汗臭いとか思ったが
今となってはそんな匂いも懐かしくて、嬉しくて
やっぱり此処が俺の帰るべき場所なんだと思える。
そして、今目の前に居るこの二人を含み真選組全隊士達が
俺の家族なんだ。
懐かしい道を懐かしい匂いを懐かしい感触を
一秒一秒かみ締めて歩いた数分間。
たどり着いた其処は
何度も何度も其処へ行き
俺は毎度其処で土方さんに怒られていた。
近「トシ、入るぞ」
中から土方さんのハスキーのかかった声が聞こえ、
近藤さんはゆっくりと襖を開けた。
副長室にはタバコの臭いとマヨネーズの臭いが充満していて
懐かしい反面、逃げ出したい気分だった。
土「ああ・・・近藤さんも会ったか・・・」
近「丁度玄関であってな」
二人の話は俺の事だろう。
との従妹、。
今の俺の存在はとして成り立っている。
違和感があるけど、ドジ踏まない様に気をつけねーと・・・。
近「そういえば、ちゃん。君は万事屋に住んでいないのか?」
ドキっとした。
万事屋という言葉に反応したわけではない。
そりゃ少なからず気になってたけど、
振り向いて俺の目を見る近藤さんが
俺を「ちゃん」と呼んだ事に驚いたんだ。
の時は最初から呼び捨てだったのに・・・何で?
俺が何も言わないので気になったのか、
今度は土方さんが俺に静かに声をかけた。
土「兄妹の従妹とは言え隊士じゃねーんだ。住む家を選ぶ権利がある。
はお前を暫く此処に住ませると言ってきたが・・・お前はどうしたいんだ?」
土方さんの言葉は優しかった。
追い出す事もなく、引き止める事もなく、ただただ俺の意思を優先させてくれた。
真選組に迷惑がかかるのに。
真選組に泊まるとか泊まらないとか、真選組に関係無い人間が決めるなんて・・・
でも俺は・・・
『私は・・・此処に居たいです。住む家も無いですし・・・』
・・・・・・もしもダメだったら?
もともとでない俺は一番隊副隊長じゃない。
副隊長でない以前に真選組隊士じゃない。
だから俺に選ぶ権利なんてない。
後は皆に任せるだけ。
沖「もちろん、いいに決まってんだろィ」
『・・・え?』
驚いた。総悟からそんな言葉が返ってくるなんて。
沖「そうでしょう?土方さん」
土「・・・ああ」
近「あっはっは。ま〜・・・なんだ。ちゃん、暫くよろしくな」
嬉しかった。
三人の優しさが嬉しかった。
そりゃ、半年前と何も変わってないけど
真選組の皆にとっては、一般人が真選組の中に居るって思うはず。
だから迷惑がかかると思うはず。
なのになんで?
迷惑をかけるつもりはない。
だけど、そう思うんじゃないの?
そう思ったけど・・・・・・俺はやっぱり何も考えずに皆と一緒に居たかった。
『はい!』
うずうずする。
また楽しい生活が始まるんだ!
明日にでも銀時達に会いに行こう。
そんで、いっぱいいっぱい話そう。
ああ、本当に、楽しみだ。
四人がタバコ臭い部屋で和んでいると、廊下からばたばたと走る音が聞こえた。
同時に、襖がバッと開いた。
山「副長大変ですっ!!」
この声は!?と振り返る俺。
視界の先から懐かしい山崎が走ってくる。
息切れして顔もぐちゃぐちゃだが
その荒々しい姿が懐かしくて顔が自然と微笑んだ。
土「あ?……どうした山崎」
ジミーと違って土方さんは落ち着いている。
この二人、もの凄く人格は違うがなんか息が合ってる気がする。
山「なんか、無線機の様子がおかしいようで…」
・・・無線機?
それがどう大変なんだ?
土「それがどうしたよ。
そんなん適当にやりゃ直んだろ」
そうそう。と思う俺。
まあ・・・どうでもいいことに真剣なのはジミーらしいっちゃらしいな。
山「…なんか中からコロコロって音が鳴るんです」
肩の高さで両手の手の平を上に向けておろおろするジミー。
ああ・・・ジミーだ。
あ、其処意味不明とか言わない。
『・・・コロコロ?ってあの懐かしい○ャンプみたいな雑誌の?』
兄「それは違うだろυ」
俺のボケへの素早いツッコミ。
流石、久しぶりなのによ〜やるわぁ!
土「………なら中調べりゃいいだろ」
山「怖いじゃないですか!!もし鼠とか出てきたら!」
土「鼠が恐くて真選組が務まるかっ!!」
『鼠と言いやぁミッ○ーっしょ。
中にミッ○ー居たら天国じゃん』
土「居るかっ!!
……仕方ねぇ…。総悟やってやれ」
沖「へい。面白そうでさぁ…」
ジミーが恐る恐るもってきた無線機を適当に奪う総悟。
コイツ、怖いものとかねーのかな?
あったらいいのにな。
面白いのにな。
今度ジェットコースターにでも乗せてみるか。
あ、まずい。俺も苦手だった。
総悟は無線機を一旦見回して
そして螺子を外して中を見た。
土「コイツぁ…」
中を見た者は誰も口を閉じない。
俺でさえ、一瞬口がポカンと開いた。
そして、一つ間を置いて俺は言った。
『ふんころがし…』
何故ふんころがし!?
何で此処にふんころがし!?
沖「こんなとこに居たのか、定春30号」
「ええっ!?」
総悟の予想外の発言に
兄ちゃんと山崎の裏返った声がハモった。
土「どういう事だ?」
俺も聞きたい。
定春と言えば神楽のペット。
何で総悟が・・・?と思うが
そして、その前に何でふんころがしを探しているのか?とか。。
・・・もうワケわかんねぇ・・・。
沖「ついこの前万事屋の旦那に頼まれたんでさぁ。
一時的にチャイナのこの定春30号を預かって欲しいって」
『なんでまた総悟に・・・』
はっはっは〜
・・・いつからそんな仲良しに?
てかてか、銀時もペットを総悟に託すなよ・・・。
あ〜もう・・・。
俺もう頭ぐらぐら。
沖「ったく…。こんなとこに入ったらダメだろ?めっ!お仕置きでさぁ」
土「フンコロガシにお仕置き要らない!!
てかどうやって入ったんだ!?」
『まーまー。ツッコミ処いっぱいだけど気にしない』
土方さんをなだめた後、俺は思い出した。
かつての記憶。
皆には聞こえない様な声で俺は兄ちゃんに耳打ちした。
『なあ兄ちゃん』
兄「何だ?」
『俺な、ふんころがしで思い出したんだけど・・・。中学生の時比喩について習ってた事があってさ
んで、「()が()のように疾走していく」等の()に自分が思いつくまま書いてみろっていう授業があったんだ。
そんで俺、「ふんころがしが馬のように疾走していく」って書いたんだ』
兄「何で!?」
たまたま思い出しただけ。
ただそれだけ。
同時に思い出したのはその頃担任だった面白い先生。
頼りになった?と聞かれたらはいと言えないけど
凄く楽しかった記憶だけある。
そう思うと沢山の記憶があふれ出してきた。
近くだった皆の声がだんだん遠くなって俺は一人記憶を辿る。
俺は今までいろんな人と出会って来たんだな。
そしてこれからいろんな人とも出会うんだ。
人だけじゃない。
場所、時間、風、匂い、感触・・・。
沢山の危険もあるだろうけど
沢山の宝もあると思うんだ。
目には見えない宝が。
俺にしか価値が分からない宝が。
俺はその宝を大事にして生きていこうと思う。
今までの宝とこれからの宝。
俺はこれからもずっと
今までの宝を大切に持ち続けて
日に日に新しい宝を見つけ出すんだ。
瞬きをする。
目に映った四人の男達。
皆違うけど皆似てる。
逆に皆似てるけど皆違う。
『私、ここの人達大好きです!!』
突然叫んだ俺に目を丸くする四人。
同時にぷっと笑った。
沖「何でィいきなり」
山「・・・ちゃんだっけ?面白いね!」
近「此処の人間の事かにでも聞いたのか?」
土「・・・まあ・・・嫌いじゃねぇなら何でもいいさ」
再び笑いあう俺達。
土方さんは総悟に「素直じゃないんだから」と言われて怒ってる。
いつもの二人。
だけどいつもと違う二人。
どちらにしたって俺は
みんな大好きだ。
NEXT
〜後書き〜
1ヶ月と16日ぶりに書きました!!
PCサイトの掲載では期間は短いですが、携帯サイトではかなり差が開いて・・・。
遅くなってすみません。そしてギャグもくだらない!!
あ〜もう最近俺どうにかしてるんじゃないですか!?
ただエロくなっただけじゃないですか、俺!?もうすっからかんですよ。頭。
要らない知識だけ入っちゃってますよ。なんか余計変態になっただけじゃないかな、俺?
なんて思いますが・・・今回の話も無理やりオチにさせました。
本当にすみません。
気にせず優しい目で見てやってください。
あ、お笑い芸人ネタは、書いていた当時に流行ってたものですのでお気になさらず。

良ければポチッポチッと。二回お願いします(*´∇`*)
感想も下さると嬉しいな〜なんて・・・
2007.11.02 風雅 漣