逃げ足はマッハを越える



たっくよーっ‥‥。
あいつらは一体何がしてーんだよ。
俺に何を求めてんだよ。




はぁ‥‥意味わかんねぇ。





第十三訓 逃げ足はマッハを越える





眩い光が砂浜を照らし
粒子1つ1つが光を反射して人々の目に入ってくる。
上からも下からも紫外線。
肌は日に焼かれ、目は充血していく。


こんな苦しみに耐えつつも
俺はみんなと一緒にここに来てやった。


行きたくもなかった、この場所に。
上司の命令には‥‥時として絶対服従なのだ。
時として‥‥。






『はぁーっ‥‥俺ここにいる意味あんの?ねぇカニさん』



足元を通りかかった小さなカニに話しかける。
当たり前の様に返事はなく
俺の事など見もしないでそのまま何処かへ消えてしまった。
せめて爽やかな風でも吹いてくれればいいのに‥‥。
だが、自分はただただ痛いだけだった。




シーン‥‥。

カニすぁ〜ん‥‥せめて君だけでも俺に構って‥‥。







無理矢理海に連れてこられ
無理矢理水着を着せられそうになり
今のところは散々な事ばっか起こってるわけだが



嫌々連れてこられたにしろ
折角海に来たのだから、部屋に閉じ籠ったままは勿体なく
どうせならと、俺は再び砂浜にシートを強いて座り込んでいた。



懲りないバカ一同は未だ海ではしゃぎ中。
俺も混ぜて‥‥



『寂しくて泣いちゃうぞー‥‥』



呟いた言葉は
周りの楽しそうな声だけでなく
小さな波の音にさえもかき消された。



沖「まぁまぁ元気出しなせぇ」



ふわっ――っと何かが肩にかかる。
タオルか上着だろうか。
半袖のシャツから覗いた腕が
こんがりと焼豚ちゃんになっていた俺は
もしそれが上着だったらとても嬉しいと思っていた。



とまぁ普通に、やってきた人物をスルーしていたわけだが。
やはり暇人の俺のところに来るのは
いつも暇なのか忙しいのかよくわからん沖田総悟だ。
わざわざ確認することもないので
視線は海の先の水平線を見つめたまま、声で判断する。



沖「何でィ。シカトか」

『シカトしたくもなるでしょうよ』



あんな仕打ちを受けてたらね。
あんな仕打ちというのはアレだ。
詳しくは第十二訓を参照してくれ。



沖「えー何かあったのかィ」

『海草に足絡ませてうっぷうっぷしてればいいよ』

沖「その表現分かりにくいぜィ」




そしてそのまま静かになってしまった。
俺の肩にソレが乗ったままどちらも海を眺めて動かない。



『・・・・・・』
「・・・・・・」



このまま海を何も考えずぼーっと眺めているのも悪くはないのだが
それだと先ほどとは何も変わらない。

あ、いや。
変わってはいるんだが。

むしろその、【変わってる事】が
気になって気になって仕方ないんだが。


これはあれか?
俺が自分から言わなきゃダメなのか?
つっこまなきゃダメなのか?


触れたくない。
だが、触れたい。

というか
突っ込むなという脳信号と
突っ込めという脳信号が反発し合っていた。

0.00何秒のうちに悩んだ結果
俺が出した答えは・・・



突っ込まなきゃ俺このままじゃね?



という事だった。






『……沖田くん、なんだろこれ』



我慢できなかった。
総悟に負けた・・・


そう悔しく思いながらも、
普段ボケでもツッコミでも両方の担当をしている俺は
やはり放置という選択肢は選べなかった。


そんな落ち込んでる俺に、沖田総悟は平然な顔をしてこう言い放つ。



「見てわかんねぇのかぃ。どっからどうみても水着だろィ

そんなこたぁ見てわかりますけど。
俺が言いたいのは、なんで水着を肩にかけたのかな!?って事よ』



そうなのだよ。
水着なのだよ。
総悟が俺の肩にかけたのは水着。
しかも覆う面積の激しく少ないビキニ()だッ!!



なんでビキニだよ!!
なんで黒だよッ!!
めちゃくちゃえっろいだろが。



ドン引きな俺の表情を見ても、何の反省も見えない総悟。
むしろ先ほどよりも輝いて見えるぞ。

あれか。俺が突っ込んだからか!!!


やるんじゃなかった・・・。




『沖田くん、こういうのはだね、ちょーせくすぃーなおねーさんに渡すものだよ』

沖「何言ってんでィ、胸ない奴こそこういうの着て色気出せってもんでさァ」

『悪かったな胸なくてな』




女は胸の大きさじゃねぇ。
胸は胸でも度胸じゃッ!!!

あ、そりゃ男か・・・。
女は確か愛嬌・・・・・・




『知るか・・・。』

沖「何がでィ?」

『もういいよ、構うな俺に・・・』




いつもいつも、疲れるなぁコイツ。

はぁ、と額に触れてため息をついた。
ジリジリと肌が焼けていく感覚が伝わる。

総悟と話している時はそっちに全神経が向けられるから忘れていた。
俺の全身を使わなきゃ、総悟の相手はできないって事だ。



ぼーっと砂浜を視界に入れていると
総悟が止まることなく俺に話しかけている。

どうせどうでもいい話だろうからと、構わずシカトだ。
相手をしたところで、疲れるだけだから。



沖「、俺をシカトするたァいい度胸でィ・・・」



ふと横を見てみると、ちょっと拗ねた様な表情が見れた。
総悟のそんな姿は想像してなくて、ちょっと驚く。



『総悟・・・?』

沖「・・・・・・」



まだ少し拗ねてるように見える。
珍しいその光景に、なんだかちょっと顔が緩んだ。



あ、自分今にやけてる。
そんな風に思った時、ふと1つの疑問が頭を過ぎった。



なんでコイツ・・・こんなに構ってくんだろ。



何かと構ってくる気がする。
気のせいか・・・?いや。俺が暇だなーと思う時以外にも
来なくていい時でさえいつもやって来る。

いて欲しい時だけいないが・・・。



・・・・・・。
まあそれは置いといて・・・。




もしかして・・・


俺の事好きだったりしてー





・・・・・・。
・・・・・・・・・ないな。








近「おい、生きてるかー?」

『あ、近藤さん』



頭をわっさわっさと乱暴に拭きながらやって来た。
太陽がバックで眩しいっす近藤さん。
眩しすぎて見てられないっす近藤さん。



近「お、なんだ。俺が眩しすぎて直視できねーか?」



手をかざして、指の隙間から見上げてみた。
顔さえ見なきゃ逞しい体だし
喋んなきゃ勇ましい男なのになぁ・・・。

普段の近藤さんって本当残念だ・・・。



『いや、太陽が眩しいだけです。むしろ見たくないです

近「ちゃーんッ!!お願いだから少しは優しくしてぇぇえ!!!」

『いや、無理っす。これ以上近づかないでください』

近「なんでぇ!!?俺が暇だと思ってわざわざ・・・」

『できれば上司だからこんな事言いたくないんですけど・・・
生理的に受け付けないんす

近「ちゃぁぁあああんッッ!!!」




膝を熱い砂浜に押し付け、頭を抑えて唸りだした。
じゅわーっという音が聞こえた様な気がした。



あ、近藤さんの膝焼けてる。



冷静にそんな事を考えていると、ぽとっと何かが頭に降ってきた。
何だろ、と顔を上げて見てみると白いタオルだった。


いや、何かちょっと・・・黄ばんでるかも・・・。



ま、、さ、、、か





『こ、近藤さんの使用済みタオル・・・・・・』












近「あ、悪い・・・」

死ねばええ・・・

近「え」





が頭上のブツを確認した直後
ほんの1秒・・・ほんの1秒で・・・・・・ゴリラの一生涯が終わりを告げた――。


近「ぐっふぅッ――」


寸隙だった。
ゴリラの顔面に左右の拳が入り、
飛ぶ間もなく回し蹴りが食い込んだ。


そして、

誰かが瞬きをして
再び目を開けた時には
ゴリラの姿はなかったという・・・。







『・・・風呂入ろ』







***





『ふぅ―・・・生き返った』


ゴリラの汗や体臭を取り除く為に、俺は旅館に戻っていた。
競歩とも取れるようなクネクネした動きですばやく部屋にたどり着き
そのまま流れる様に風呂場へ向かって行った。


真選組貸切風呂。


近藤さんでとっただし汁に
一般人を浸らせてはいけないという土方さんの考慮だった。


俺だけは一般風呂に入れという事だったのだが
生憎この時間は清掃時間・・・開いていない。


仕方ないのでやって来たのだが・・・。





どうやら俺、やってしまったらしい・・・。





『・・・服がねぇ・・・・・・』




確かに俺はここで脱いだ。
着ていたものをここに置いた。
着替え用に新しい服も持ってきていた。
確かにここに置いた。
ちょっと記憶を遡って、風呂場の鍵も閉めたのも覚えている。



・・・・・・。



じゃあ何だ・・・この黒ビキニは・・・。




『総悟クソヤローがァッ!!!』




手にしたビキニを力いっぱい握り締める。
拳をわなわなと震わせ、怒りの矛先を犯人へと向けた。


アイツ絶対ぇシメるッ!!!





全身筋肉痛で、利き腕使えなくて
ぷるぷる生まれたてのゴリ・・・小鹿状態な俺なのに

頑張って、1人で風呂入って
筋肉が悲鳴を上げる中、左手で体洗って・・・。

やっとスッキリしたと思ったらコレだよ。




総悟の奴、俺の服盗んで水着だけ置いて行きやがった。




俺何を着ろと・・・?
これを着ろと・・・?


てかお前・・・鍵閉めたのにどっから入りやがった!!?





『・・・忍者かアイツ・・・・・・』






それにしても・・・このままではまずい。
いくらなんでもタオル1枚は・・・。
それに暫くしたら海水塗れの隊士達がやってくる。

アイツらに服を持って来させるのは絶対ぇ嫌だ。

かと言って、タオル1枚で外に出るのも・・・。
せめてスースーする下は穿きたい。

上はきゅってなるけど、下は・・・・・・。
うわ、考えるだけでも恥ずかしくなってきた・・・。





ふと、握り締めていた水着に目が入った。





『・・・形は・・・・・・下着だよな、コレ』







***







沖「チャンスだと思ったんでねィ」

「隊長流石ですッ!!」



先程風呂場に進入した後、
にバレる事なく砂浜まで戻ってきた沖田総悟。

自分が今さっきしてきた武勇伝を
仲間に自慢げに話している所だった。



沖「いやぁ・・・でもホント上手くいったぜィ」

「何もなかったら水着着るしかないですもんね!」

沖「おうよ」



今頃どんな反応をしているだろうかと
思わずの想像をしてニヤリと笑った。


流石に絶対着るだろィ、



やりきった、という清清しさで
俺は炭酸飲料を一気に喉に流し込んだ。


が、一気に飲むんじゃなかった。



「あーの水着姿・・・早く見てぇなぁ」

沖「ブフッ・・・」



咽た・・・。
口内に溜めていたものは噴出され
喉を通過していたものは肺に入りそうになり、咳き込む。


咳き込んだせいで苦しくなり、
少し涙が出てきた目で別の隊の副隊長である男を睨みつけた。




「もしかして副隊長、副隊長の事興味あるんですか」
「ば、ばか。声でけぇんだよ。男としてやっぱ・・・気になんだろ」
「ま、まあ。アレでも女ですしね」
「着物もそうだし、水着みたいな女って言える格好すれば結構・・・」



―ムスっ――
何故かイライラする。
コイツらがの水着姿を想像していると思うと無性に腹が立つ。


自分でやった事だ。
自分でアイツに水着を強制的に着せようと企てた。

だが、俺以外の奴が見るという事まで考えていなかった。



計算外だぜィ・・・。





沖「おいおめぇ・・・の水着姿見んじゃねぇぞ」

「え。何でっすか」

沖「何でもだ。見たら殺す」

「はぁ?・・・・・・ひぃっυ」




目のイッちまってる沖田総悟に刀を向けられ、
どこぞの副隊長達集団は脅えてしまい、そそくさと逃げていった。
逃げ足の速いこって・・・。
ってそれよりも・・・




沖「予定変更だぜィ・・・」


誰かに見られる前にに着替え持って行くしかねぇな。



隠しておいたの着替えを持って
すぐさま真選組貸切風呂へ向かう。

入れ違いにならないといいが・・・。






『あーウザい。話せナンパ野郎ども・・・』



まだ風呂場へたどり着く前にの声が聞こえた。
声のあった方へ向かってみる。

するとすぐ目に入った。

旅館の裏側にある、人気の少ないビーチで
タオルを巻いたがチャラチャラした男に囲まれている。



げ・・・アイツもしかして水着着てねぇのかィ



どうやら掴まれてるのは左腕みたいだし
右腕は使えないから振りほどけねーのかアイツ。




「そんな事言ってねーで、ほら、タオルも暑いから脱いじゃいなよ」

『暑くねーよ。つか腕痛いから離せってば』




んなッ。
おいおいおい。やべーだろィ

もし水着着てなかったら・・・タオルの下は・・・。





沖「おい、そこまでにしろよな」

「あん?」

『あ。総悟!』





俺に気づいたナンパ男達は
のタオルを取ろうとする動きを止めた。



「んだよお前。彼氏か?」

沖「なわけねーだろ。誰がこんな男女彼女にするかィ」

『うっせ。そりゃこっちのセリフだ死ね』



の髪はまだ少し濡れていた。
どうやら髪も乾かさずここに来たらしい・・・。



何やってんでィ・・・。




沖「コイツぁ一応俺らのツレなんでねィ」


ぐいっとの腕を男の腕から引っ張り出した。
おっと、と体勢を崩したが小さな声でつぶやく。




「・・・ちっ。まーいいや行こうぜ」



諦めの早いナンパ野郎達だった。
俺がとの間に入ると、踵を返して去って行った。




沖「ったく、何でこんなとこに来てんでィ」



男達が完全にいなくなるのを見届けてから振り向く。
が、それが阻止された。



『総悟ッ!!てめっ、俺の部屋の鍵まで隠しやがっただろ!!!』



拳がいきなり飛んできたのだ。
だが、利き腕じゃないためキレがなく、俺はすんなり避けれた。


怒りを顔に出したが仁王立ちしている。



どうやら、着替えの中に部屋の鍵が入っていたため
今すぐにでも水着を脱ぎたかったのだが、脱げなかったらしい。

着替えが他に無い以上、どうしようもないわけだ。




『おかげでこんな格好でお前を探す破目にッ』




左腕をぶんぶんと振り回し、
なんとか俺を殴ろうと奮起している。

腕がダメなら足ということだろうか、
足は慣れているため高さのあるハイキックが飛んできた。



沖「おい、んな暴れたらタオルが・・・」



動くたびにタオルの裾がめくられ、その度に気が気でなかった。
このままだと流石にまずいんじゃねーかィ


足を払い、腕を掴んで静止させるとが俺を睨んだ。



『大丈夫だっつの、水着着てっから・・・・・・あ』



腕を掴んださいに、タオルの端までも掴んでしまったようだ。

ぴらっとタオルの間から見えたそれは
紛れも無く俺が着替えと入れ替えた水着で

濡れた髪と黒の水着が、をいつもと違う雰囲気に見せていて


俺はなんだかよくわかんねーけど、動けなくなった。




何やってんでィ、俺ぁ。




『鍵と服返せアホ』



は変わらず気にしてない様子で俺に突っかかってくる。
そのままの勢いで胸倉を掴んできた。

俺はこんなにも変に意識しちゃってバカみたいでさァ。


結局見た目が変わっても、中身は変わらねぇんだなぁ。



ふっ。
の怒った顔が思わず笑えた。

そして思い出した、
そういやまだコイツ足しか海入ってねぇや。




沖「・・・・・・折角水着着てんだから、泳がねぇのかィ」

『はぁ?』



胸倉を掴んでいた力が緩んだのを見て
俺は一歩下がって手から抜き取りシャツを直した。



沖「まあ泳げなくても俺が支えるから安心しろィ」

『・・・・・・誰?』



アホ面したがこっちを見た。
朝見た面よりももっとひでぇ顔でさァ。



沖「泳ぎたいんじゃないんですかィ?」

『・・・泳ぎたいけど』

沖「なら、ほれ」



俺が先に海に浸かると、困惑した表情でついてきた。
意外に素直で、また笑えた。



沖「お前と海入んのも久々だな」

『・・・そういやあったな・・・懐かしい・・・』



苦い思い出でも思い出すような顔で空を見上げた
そして俺の顔を見て、再び睨んだ。



沖「流石に怪我人を海に放り投げたりしないぜィ」

『お前に常識はないと思ってるから信じねー』

沖「ちっとくらい信用してくれてもいいんですけどねィ」




ちらっと一瞬こちらを見たが、
信用してない顔でまたふいっと元に戻った。

海の水を少し手で掬うと、
重ねた手の隙間から少しずつ水が零れていく。




『海、悪くねーな』




呟いた様に小さな声だったが
その声はハッキリと俺の耳に届いた。




沖「きっとが完全復活した時に
また近藤さんが連れてってくれると思うぜィ」


『・・・だろうな』




が、笑った。
俺もその笑顔を見て釣られた。




―ビシャッ――

沖「っ・・・何すんでィ」



顔にしょっぱい水がかかった。
犯人は当たり前にコイツ・・・にやにやと笑っている。




『前もこんなんやったろ!』

沖「へぇ・・・やってほしいんだな」

『ハンデ有りな。俺怪我人』

沖「ハンデなんて・・・世の中平等が1番だぜィ」






それから暫くの間
ほとんど誰もいないその場所で
激しい水の掛け合いが繰り広げられていた。


まるでそれは・・・戦場の様に・・・・・・。







『あーあ、また風呂入らねーとな』





NEXT



〜後書き〜

本当皆さんお久しぶりです!!
書き始めて何ヶ月も経ってしまい、どんな話だったのか忘れてしまっていました←
ギャグぜんぜん入れれなくて残念です。
というかなんだこのラブコメは・・・www
ちょっと今回はいつもと違った雰囲気で書かせていただきましたよ。
ヒロインに女性の水着を着せちゃおうという
あぷ様のリクエストにちなんで書かせていただきましたが、
俺には難しかったです・・・すみません。
話毎のブランクが毎度の事ながら長いので
次は近いうちに書きたいとは思います。
ギャグ入れたい。面白い話にしたい。
次は一気にテンション変えていけたらいいなと思います。


では、第十四訓もよろしくお願いします。




良ければポチッポチッと。二回お願いします(*´∇`*)
感想下さると嬉しいな〜なんて・・・思っちゃったりしてます。


2010.07.22 風雅 漣